光で描く、玉川髙島屋S・Cの”情緒”──建築家・永山祐子が語る、本館2階リニューアルと照明の設計思想

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光で描く、玉川髙島屋S・Cの“情緒”
──建築家・永山祐子が語る、本館2階リニューアルと照明の設計思想

2024年、玉川髙島屋S・C本館2階フロアが大きくリニューアルされた。
設計を担ったのは、日本を代表する建築家・永山祐子氏
グランパティオから続く吹き抜け空間との一体感、自然の光と照明が生み出す“にじみ”のような質感。
素材とディテール、そして光のグラデーションが丁寧に設計された空間は、買い物以上の体験を来訪者に提供する。
今回はその空間設計の意図と、照明演出に込めた想いを伺った。

tothune.jpg有限会社永山祐子建築設計
一級建築士
永山 祐子 氏
horibe.jpg有限会社永山祐子建築設計

横田 英雄 氏

hayamiya05.jpg撮影:阿野太一

■ グランパティオから2階へ。光でつなぐ空間設計

DNL:まず、今回の本館2階リニューアルの位置づけについて伺えますか?グランパティオの設計と、どのように連続性を持たせたのでしょうか。

永山祐子(以下永山):2階は、グランパティオからの“連続性”が出発点でした。吹き抜けでつながっているので、自然と視線も動線も繋がってくる。
1階は柱グリッドが強くて、そこにリビングルームのような空間が点在していました。一方、2階はもう少しコンパクトで、柱よりも“場”が際立つオーガニックな空間。瓦のような素材感や、柔らかく広がる光で、空間の質を変化させています。

 

■ 光で“自然”をつくる──照明で表現する屋外感

DNL:百貨店という閉じた空間に、“自然”や“開放感”を取り込むために、どんな工夫をされたのでしょうか?

永山:以前の百貨店は、時間を忘れさせるために光を遮断する設計が多かった。でも今はむしろ、外光や自然を積極的に取り入れるのが主流です。
今回のリニューアルでも、ガラスに変更したファサードや、照明で作る“自然光っぽさ”を意識しています。グランパティオは自然光が入らない場所ですが、光の強弱のグラデーションによって、屋外のような空気感を人工照明で演出しました。

 

■ 星屑のような照明──上下階をつなぐ“にじみ”の設計

DNL:1階の照明が星屑のようで、それが2階のダウンライトにも呼応している印象でした。

永山:そうなんです。実は1階と2階で、照明モチーフの連続性も意識しています。照明器具そのものは違いますが、星屑のような瞬きが全体に散っていて、光で上下階をつないでいます。
自然の中の光って、必ずしも均一ではないじゃないですか。ムラがあって、揺らいでいて、だからこそ美しい。その感じを建築にも反映させたかった。

■ “仕切らない空間”が生み出す、連続する買い物体験

DNL:今回の2階は、テナント間の壁がないことで、空間がとても開放的に感じられました。

永山:それも大きなテーマのひとつでした。以前のフロアは、全体を壁で仕切っていて、視線の抜けがなかったんです。今回は、バックスペースなど最小限の囲いは残しつつ、それ以外は“仕切らない”方針で。真ん中に設けた共有スペースにはベンチを置いて、お客様が自由に回遊できるようにしています。どの店にいるのか分からないくらい、空間が一体的になっている。買い物が「点」ではなく「線」で繋がるような、連続的な体験を目指しました。

■ “楕円”のモチーフで、グリッドを崩す

DNL:2階の床材や天井など、楕円のモチーフが印象的でした。意図的な設計だったのでしょうか?

永山:はい、あえて“オーガニックな形”を使うことで、建物に元々ある強いグリッド感を崩したかったんです。楕円の床パターンや折り上げ天井のラインは、全体の流れや広がりを生み出すための仕掛け。
多摩川の川石のような、小さな自然の要素を点在させることで、空間全体が柔らかく感じられるようになっています。

hayamiya05.jpg2階平面図

 

■ 塗装にも“にじみ”を──光と素材の呼応

hayamiya08.jpg撮影:阿野太一

DNL:天井の柔らかな光の広がりが印象的でした。塗装仕上げにも何か工夫をされたのでしょうか?

永山:はい。天井は塗装なんですが、あえて“ムラ感”のある手塗りにしています。
光のにじみと塗装のにじみが重なって、まるで水彩画のような質感になるように。光の側だけでなく、素材の側でも“にじませる”ことを意識しています。手作業による仕上げなので、よく見ると筆の跡が残っているんですよ。

横田英雄:この特殊塗装は、いつもお願いしている早瀬塗装さんに担当していただきました。1階のグランパティオも同じく早瀬塗装さんの手によるものです。

 

■ “浮いて見えるベンチ”──光で支える素材の演出

hayamiya08.jpg撮影:阿野太一

DNL:石のベンチ下に仕込まれた照明も印象的でした。柔らかく“浮いて”いるように見えました。

永山:あれは本当に大変でした(笑)。実は、関ヶ原石材さんに頼んで、捨てられるはずだった端材をストックしてもらっていたんです。照明は、ベンチが“浮いて”見えるように下から仕込んでいます。光が床に反射し、周囲の空間ごとハイライトされるようにしていて、遠目からでも特別な場所だと感じられるように設計しました。


hayamiya08.jpg施工風景

 

■ 玉川の“自然”を空間に取り込む

DNL:空間における「地域らしさ」や「自然らしさ」についても大切にされていたように感じます。

永山:そうですね。玉川という土地は、少し行くと自然が豊かなエリア。昔は“東京の避暑地”とも呼ばれていたくらいです。
今回のリニューアルでは、その“自然の入り込み”を意識しました。百貨店って、どうしても演出された花や造花が多かったりするんですが、今回は“園芸っぽい花”は一切使わず、等々力渓谷の緑が中に入ってきたような空気感を目指しました。

hayamiya08.jpg多摩川 河川敷

 

■ 照明は素材と並ぶ“設計要素”

DNL:永山さんにとって、この空間における照明の役割とは?

永山:床材や天井材と同じくらい、“照明は空間の素材”です。特に今回のように、自然光の入りづらい場所では人工光の扱いが本当に重要で、ダウンライトや間接照明の配置、照度のバランスなどを徹底的に検証しました。明暗の“ムラ”を意図的に作ることで、空間に奥行きと心地よさが生まれるんです。

DNL:均一な照度ではなく、“濃淡のある光”が印象的でした。

永山:そうなんです。均等に明るいだけだと、空間に“退屈さ”が生まれてしまう。あえて暗いところを残しつつ、明るい部分が際立つようにすることで、自然な光のリズムが生まれます。

 

■ “照明が見える”ことを恐れないデザイン

hayamiya08.jpg撮影:阿野太一

DNL:永山さんご自身の照明へのこだわりについても伺いたいです。

永山:私は“見える照明”と“見えない照明”、その両方があっていいと思っているんです。今は灯具をなるべく見せない傾向がありますが、私はむしろ、出てきてしまう灯具を積極的に“デザインの一部”として扱いたい。
例えば、グランパティオではオリジナルのペンダントライトを星屑のように配置して、“見える光”で空間をつくりました。今回の2階改修でも、照明器具の配置や組み合わせによって、光のあり方そのものが空間を形づくるようにしています。

 

■ “光の表情”でつくる、買い物以上の体験

DNL:この空間で、お客様にどんな体験をしてほしいと考えられていますか?

永山:特に玉川髙島屋S・Cは、年配の方から若い層まで、幅広い世代が訪れます。従来のお客様はもちろん、若い方にも“再発見”してもらえるような、居心地のよい空間をつくりたかった。買い物をする場所であると同時に、“ふと立ち止まりたくなる空間”
──そう感じてもらえるよう、素材と照明の関係、見えるもの・見えないものの境界線、そういったあらゆる要素を丁寧に設計しました。

 

hayamiya08.jpg

永山氏が語る「光のデザイン」は、単に空間を照らす手段にとどまらない。
空間の輪郭を浮かび上がらせ、素材と対話し、訪れる人の感情に静かに作用する
――そんな、情緒豊かな“設計素材”としての光が、この玉川髙島屋 S・C本館2階に丁寧に織り込まれていた。

 

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