「令和のおしゃれなコートハウス」──照明デザイナーと建築家が設計した理想の家" HOUSE IN HAYAMIYAプロジェクト"|《第1章》
「令和のおしゃれなコートハウス」──照明デザイナーと建築家が設計した理想の家"HOUSE IN HAYAMIYAプロジェクト"|《第1章》
中庭を囲む平屋建て、やわらかな木の天井に包まれた勾配屋根のLDK、時間によって表情を変える光のグラデーション。
「HOUSE IN HAYAMIYA」は、照明デザイナー・戸恒浩人氏と建築家・堀部雄平氏の協働によって生まれた、まさに"光をまとう住まい"。本記事では、「光をまとう住まい」「昼と夜のグラデーション」「少ない光で豊かな表情を出す建築と照明」などをテーマに、おふたりに住まいづくりのプロセスを語っていただきました。

照明デザイナー
戸恒 浩人 氏

建築家
堀部 雄平 氏
›› “光をまとう住まい”──照明デザイナーと建築家が手がけた理想の住宅
›› 自然光と照明が共演する、昼夜のグラデーション
›› 大開口がもたらす“屋内外のあいまいさ”
›› 素材と光の“設計された調和”
›› 「くつろぎ」をデザインする、住まいの光と居場所
›› 勾配天井×ライン照明──“光を包む”技術的こだわり
■ “光をまとう住まい”──照明デザイナーと建築家が手がけた理想の住宅

DNL:今日は、照明デザイナーの戸恒浩人さんと、建築家の堀部雄平さんに、ある住宅プロジェクトについて詳しくお話を伺っていきたいと思います。
この住まいは、照明デザイナーが理想とする住宅をテーマにしたもので、非常にユニークな空間構成と光の設計が特徴です。初めて拝見したとき、私はまさに「令和のおしゃれなコートハウス」だなという印象を持ちました。
まず最初に、この住宅の設計を進める上で、大切にされていたキーワードや全体の方向性についてお聞かせいただけますか?
堀部雄平(以下堀部):このプロジェクトでは、住まいの中心となる“メインの居場所”を一つ明確に設けよう、という考えがありました。
中庭を中心に住まいをぐるりと囲むような「コの字型」の平面構成で、LDK空間がまさにその中心=メインの場となるよう計画しています。
戸恒浩人(以下戸恒):そうですね。LDKは、昼も夜も家族の時間が流れる場。中庭とつながる大開口のあるこの空間が、まさに家の“核”になるように設計されています。
DNL:中庭と一体になったLDK空間、特にこの大きな勾配屋根が印象的ですよね。屋根の下にひとつの大空間があって、庭とも連続しているような感覚があります。
堀部:LDKの天井は、木のルーバーで仕上げた三角形の勾配屋根になっていて、建物の南側と北側からそれぞれ光が差し込むように計画しています。とくに南側は軒を深く出して直射日光を適度に遮りつつ、上部のトップライトから柔らかい自然光が入るようにしています。
戸恒:夜は、そのトップライトのまわりに隠された間接照明から光が柔らかく漏れ、昼間とはまた違った空気感をつくってくれます。屋外と屋内が昼夜通してひとつの大きな空間としてつながっている──そんな家にしたかったんです。
DNL:LDKからは寝室や書斎、さらにガレージの方まで視線が抜けていて、空間がとても立体的に感じられます。
堀部:そうですね。中庭を中心にしながら、どの部屋からも外が感じられるようになっていて。たとえば寝室からも中庭越しにLDKの照明が見える。LDKからは、ガレージに止めたクライアントの愛車が見える。ひとつひとつの空間がバラバラにあるのではなく、視線のつながりと光の広がりの中で“暮らしの動線”が自然とできていくように考えました。

戸恒:あと、例えば曇りの日や雨の日。外が暗いときほど、家の中の光の存在って大事になるんですよね。だから昼間でも間接照明をつけて過ごせるようなプランにしています。
DNL:確かに、天候によって室内の印象も変わりますもんね。
戸恒:はい。朝は、起きてシェードを開けると、差し込んでくる光の量で天気が分かる。晴れていれば照明をつけずに気持ちよく過ごせるし、曇っていたら柔らかい白色光をつけて、無理なく自然なリズムで一日を始められる。暮らしと照明の関係性を、時間軸でデザインする──そんなことを意識しています。

■ 自然光と照明が共演する、昼夜のグラデーション

DNL:この住宅は、昼夜、そして深夜と、時間の経過によって照明環境が変化するよう設計されていると伺いました。 照明デザイナーと建築家、それぞれの視点から、この“時間の移ろい”をどう空間に落とし込んだのか、お聞きしたいです。
戸恒:僕たち照明デザイナーは、光を“道具”として空間に入れていきます。特にLDKのように中庭と一体になった空間だと、外光だけでは室内がどうしても重たく見える瞬間が出てくるんです。
DNL:たしかに、自然光だけで成立させるのは難しい時間帯もありますよね。
戸恒:そうなんです。なので、昼間であっても照明を使いたくなる場面がある。一方で建築家の中には、「太陽光で空間を見せるのが美しい」と考える方も多いんですよね。
堀部: もちろん、自然光を活かすのは建築設計の大事なテーマです。ただ今回、戸恒さんの照明でとても印象に残っているのは、“昼の中にある照明の存在感”なんです。
DNL:昼の中の照明、ですか?
堀部:そうです。自然光が入っているのに、その中で照明もそっと機能している。それが夕方に近づくにつれて、ふわっと照明の光が浮き上がってくる。 時間とともに、自然光と人工光のバランスがゆっくり変わっていく。まるでシークエンスを感じさせるような流れがあるんです。
戸恒:ありがとうございます。建築との協業でよく意識しているのが、「昼から夜までを一つの流れでつなぐ」ことなんです。これは以前担当した別荘の案件でも同じでした。
堀部:晴れた日の夕暮れに、中庭越しにトップライトの光が残っている。そしてリビングの中では照明がほんのり浮かび上がってくる――その両方がマジカルに共存するんですよね。あれは本当に印象的でした。
■ 大開口がもたらす“屋内外のあいまいさ”

DNL:空間のチャームポイントの一つが、この大きなガラス窓だと思います。開放感がありつつ、どこか落ち着いていて…。この開口部の設計意図についてお聞かせいただけますか?
堀部:この住宅は“中庭(コートヤード)”を中心に構成していますが、当初から「内外の境界を極力曖昧にしたい」という共通認識がありました。 寝室や和室といったプライベート空間も、あえて壁で閉じず、緩やかにつながる“ひとつの大きなワンルーム”として捉えています。
DNL:それであの大きな開口になったんですね。
堀部:そうですね。ただ、開きすぎると問題もあるんです。例えば暑さやプライバシーの問題。特に周囲からの視線が気になるケースもありますので、そのあたりは慎重にバランスを見ました。大きく開ける部分は水平に広げつつ、高さは抑える。そうすることで視線を制御しつつ、外部とのつながりは確保できる。 LDKと和室も一体的に使えるようにして、“離れ”のような隔たりはあえて設けていません。
■ 素材と光の“設計された調和”
DNL:木の天井や石調タイルの床材もとても印象的でした。素材と光が相互に引き立て合っていると感じます。どのような意図があったのでしょうか?
堀部: 勾配屋根のかたちがこの家の大きな特徴なので、天井には木のルーバーを採用して自然素材の温かみを出したいという思いがありました。 コストとの兼ね合いもありましたが、最後までこだわって実現できたのは良かったと思います。
DNL:床材は石状のタイルですよね?
堀部:はい。光の反射がやわらかく、落ち着いた雰囲気になるのでこの素材を選びました。
戸恒:そこに光をどう当てていくか、というのが照明デザイナーの腕の見せどころですね。素材の質感を殺さず、かといって“演出しすぎない”バランスを探るのは毎回難しくも面白いところです。


■ 「くつろぎ」をデザインする、住まいの光と居場所
DNL:LDKにある大きな勾配天井の空間、やはりここが住まいのメインとなる場所ですね。 光の設計において、どんな狙いがあったのでしょうか?
戸恒:この空間は、昼から夜、真夜中まで──一日を通して、光がどう変化していくかを非常に大切に考えました。 特に、天気による印象の違いが大きくて。晴れている日は自然光で十分気持ちがいいし、曇りや雨の日は、あえて人工光で室内の明るさを補ってあげる。光の温度や強さでその日の気分を調整するような感覚です。
DNL:なるほど。天候によっても照明の使い方が変わるんですね。
戸恒:そうですね。朝はシェードを開けると光がバーッと入ってくる。それだけで一日が始まる感じがしますし、逆に暗い朝は、あえて照明をつけて気持ちを上向かせるような使い方を想定します。
DNL:ちなみに、調光の操作はどのようにされているんですか?
戸恒:LDKにはルートロンの無線調光システムを導入しています。基本は「昼」「夜」「しっとりモード」「OFF」みたいな4パターンを設定していて、気分や時間帯によって切り替えていただいています。 基本的には手動で切り替えるスタイルですね。



撮影:鈴木文人
■ 勾配天井×ライン照明──“光を包む”技術的こだわり

DNL:この空間の光はとても柔らかくて、しかも均一に広がっている印象を受けました。技術的な部分で、どういった照明構成になっているのでしょうか?
戸恒:実はLDK+和室における主な照明要素は、わずか4つです。そのうちの8割は、DNライティングさんの器具を使用した天井間接照明で構成されています。 大きなガラス窓の上部に2列のライン照明を仕込み、天井に柔らかく光を当てているんですね。
DNL:2列にしているのは、どういう意図があるんでしょう
戸恒:それぞれ役割が違います。1本目は近い面の天井をストレートに照らす役割。もう1本は、対角の屋根面を照らすように設置していて、照明だけで空間全体の明るさが均質になるように設計しています。
片側だけだと、光が当たらない面が暗く見えてしまって、空間に緊張感が出すぎるんです。バーやレストランならそれでもいいかもしれませんが、住まいでは柔らかく包まれるような光のバランスが必要です。

この事例で使用された器具
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