建築と一体設計された虎ノ門ヒルズ ステーションタワー ”光の演出”|《前編》
建築と一体設計された 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー“光の演出”|《前編》
2023年10月に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が開業し、更なる進化を遂げている虎ノ門ヒルズ。今は大いに賑わっているが、その魅力の1つに光による演出がある。建築と一体設計された空間の光が人の印象や行動にどのような影響を与えているのか。照明器具の手法や意図、こだわりとは何か。今回は久米設計電気設備設計室主管の前博之氏とグロウ代表取締役の下山竹男氏が語り合った。
株式会社久米設計環境設備設計本部 電気設備設計室 主管
前 博之 氏
株式会社グロウ代表取締役
下山 竹男 氏
›› 製品のバリエーションが豊富でワンストップで相談できるのも選定理由
›› LEDモジュールを使ってデザイナーのイメージを具現化できた
›› 通常のテープライトは500~600lm、DNLは通常の4倍の2000lmほどある
›› 影を感じることもなくグレアも感じさせない空間
■ 製品のバリエーションが豊富でワンストップで相談できるのも選定理由
B2F シャトルエレベーターホール 風除室(写真提供:森ビル株式会社)DNL:今回の「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」のプロジェクトは、お二人にとってどのような位置づけにあるのでしょうか。
前 博之氏(以下 前):このプロジェクトは地下鉄駅と一体となった再開発であることが特徴で、大規模かつ長期的な取り組みであり、当社にとっても最重要案件と言えるものでした。とくにデザインアーキテクトのOMAなど、世界を代表する建築家や照明デザイナーがイメージしたデザインをどれだけ実現できるのか。電気設備設計者としても、非常にチャレンジングな仕事でした。
下山 竹男氏(以下 下山):メインデザイナーのARC LIGHTも、私もホテルを始め、ホスピタリティ系の仕事に多く携わっており、その知見については豊富なのですが、オフィスビルなどの大規模な空間づくりは経験も少なく、まさにチャレンジングなものでした。公共空間を扱う大きなプロジェクトであり、私たちも全力を挙げて取り組みました。
DNL:そんな重要プロジェクトにおいて、今回DNライティング(DNL)の製品を導入された理由についてお聞かせください。
下山:このプロジェクトの照明デザインがスタートしたのが2017年。OMAのデザインはインテリアと一体化した照明であり、その空間を損なわないようにすることが重要でした。(細くてパワーのある)LEDのテープライトやライン照明だけで適正な照度を構成するのは当時としても画期的なこと。様々なシミュレーションを重ねた結果、DNLの製品であれば、その空間を実現できるということで選定したのです。
前:複数のメーカーの照明器具を組み合わせると、例えば色温度にバラツキが出やすいのですが、DNLは製品ラインナップが揃っていたので進めやすかったですね。製品のバリエーションが豊富であれば設計もしやすいし、ワンストップで相談できます。現場でのフォロー体制も含めて、安心して任せられると判断しました。
下山:忘れてはならないのは、施工の仕事に慣れているメーカーとそうでないメーカーがあることです。現場の施工チームともうまくやってくれる会社だという期待感もありました。また、色温度や長さのバリエーションが揃っていたため、一つのメーカーで、ある程度まとめられる安心感もありましたね。
■ LEDモジュールを使ってデザイナーのイメージを具現化できた
B2F ステーションアトリウム (写真提供:森ビル株式会社)DNL:では、ここから具体的な話に入っていきたいと思います。まずは「B2F ステーションアトリウム」の基本コンセプトについてお聞かせください。
下山:天井に直線の光のラインが走っているところが照明になります。このほかに照明は入っていません。このライン照明が意匠でありながら、かつ機能照明の役割を果たしています。LEDモジュール「FXH-LED」を採用しており、テープライト状のもので1本5mまで長物に対応できるものでした。
前:B2F ステーションアトリウムは地下鉄や地上出入口とつながっており、「つなげる」ということが基本コンセプトになっています。こちらの照明はわかりやすく、インジケーター(案内表示)的に人を導くようなデザインです。地下鉄から出てきた人がオフィスのエレベーターホールへ迷わず行ける。その道しるべとして「つなぐ」という意図がデザインには込められていると考えました。
下山: 当時はライン照明だけで、これだけ高い天井の照明にするのはまだまだ厳しかったと思います。しかし、ダウンライトなどで補足したくない。
前:その点、「FXH-LED」は幅が30~40mmほどの非常に細く平べったいテープライトで、このタイプでは一番明るいものになりますね。
照明納まり図
LEDモジュール「FXH-LED」
■ 通常のテープライトは500~600lm、DNLは通常の4倍の2000lmほどある

下山:光源から放出される光の量の光束の単位をルーメン(lm)と言いますが、1m当たりのルーメン数は通常のテープライトでは500~600lmくらい。しかし、採用したテープライトは通常の約4倍となる2000lmほどの明るさを確保できました。
前:実はこれ、照明器具がそのまま見えているのではなく、天井と一体的に作ったボックスにテープライトをはめ込んで、その上に乳白のアクリルカバーを被せています。結構手が込んでいますが、既製品では限界のある「つなげる」デザインが実現できたと思っています。
下山:ただ、施工は大変ですよね。照明は注文するまでは簡単なのですが、施工レベルで施工者と協議するのは一番苦労するところです。
前:特に安全性は非常に重要で、このB2F ステーションアトリウムは災害時に帰宅困難者を支援する、一時滞在施設の役割も果たしていて、当然ながら天井から物が落ちてこないようにする必要があります。図面だけ見れば簡単に書かれていますが、実際にはアクリルのカバーも落ちないように落下防止のワイヤーが付いているなど様々な工夫をしており、メンテナンスの際も天井の上からアクセスできるようにしています。建築主の求める安全性や運用面での基準が高く、デザインと安全性を両立するハードルが高かったことは他の建築物と違うところです。結果としては、非常にいいものができたと思っています。
下山:高い位置に照明がありますが、LEDのメリットは頻繁なメンテナンスを必要としない点にあります。約4万時間の耐久性があるため、交換や点検の手間を大幅に軽減できます。
通常のテープライト(FXL-LED)【左】「FXH-LED」【右】
■ 影を感じることもなくグレアも感じさせない空間
B2F シャトルエレベーターホール(写真提供:森ビル株式会社)
DNL:「B2F シャトルエレベーターホール」についてはいかがですか。
下山: こちらの空間は御覧の通り、ルーバー天井のみで照明を完結しなければならないため、さらに細い10mm程度のLEDモジュール「XC-LED2」を採用しています。細身ながらパワーがあり、ふんわりとした光を生み出しています。器具同士が不要な影を消し合い、均等な光を生み出すのです。
前:ルーバー自体の吊り材の他、天井には感知器やスプリンクラー等法律で定められた設備も設置されています。それらがどうしても影になってしまうため、影を打ち消すための工夫をしています。ルーバーは300mmピッチであるのに対し、照明は600mmピッチで配置。間隔を密にしていくことで均質で影が出ないようにしているのです。器具光束、ピッチの違いでいくつか検証した中でベストな状態を作ることができました。ルーバーの色は、壁の色と呼応するようにローズゴールド色に見える側と、白く見える側とに塗り分けています。
ローズゴールド色(エレベーター側からのみ見える)【上】白色【下】下山:実際、影に感じるところはほとんどありませんし、グレア(まぶしさ)を感じさせるものも周りにありません。エレベーターホールの空間として機能性は高く、グレアを感じさせず、明るさは均一になっているのです。照明デザインではグレアを避けることは必須の条件で、パブリックなエリアとしては上々の環境となっています。最近はエレベーターホールやビルエントランス、ロビーなどもデザインのステージが上がっています。これまではお金を生み出さない空間だと考えられてきましたが、今はきちんとした設えにする。時代も変わり、LEDによって間接照明の形状も自由度が広がっていることも大きい。一方、インテリアデザインも好きなように描けるようになり、照明を選択する私たちも幅が広がっている。デザイナーに「これ無理ですよ」と言わなくてよくなったのです。ただ、選択の幅が増えた分、選ぶのも大変です。そのため、日頃から情報を集める必要がある。新しい情報をタイムリーに提供してくれるメーカーは設計者にとってありがたい存在です。
この事例で使用された器具
【お問い合わせ・ご相談】
お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。

















