大阪ミナミの三津寺さんの美しい仏像・天井画を彩る《後編》 | 黒子「祈りの灯り」〜次世代型寺院で実践した間接照明プランと器具選定テクニックの事例〜

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《後編》個々の仏像と天井画への照明テクニック

応神天皇の御墓所として、奈良時代の名僧・行基菩薩が楠を植えたのを始まりとし、のちに聖武天皇の勅命により天平16年に開山した七宝山大福院三津寺。大阪ミナミの繁華街に位置し、「みってらさん」「ミナミの観音さん」という愛称で人々に愛されてきたこの三津寺が2023年11月、四年の歳月を経て新しく生まれ変わった
改築に伴い、照明も全面的に見直されたわけだが、本堂やそこに安置された仏像を照らす灯りはどのように作られたのだろうか。住職である加賀俊裕氏、また照明を手がけたアカリ・アンド・デザインの照明デザイナー吉野弘恵氏に振り返っていただいた。

三津寺 住職 賀 俊裕 氏
アカリ・アンド・デザイン  吉野 弘恵 氏

■ 十一面観世音菩薩像

住職:こちらは私ども三津寺のご本尊、十一面観世音菩薩像です。非常に穏やかなお顔をしておりまして、頭頂部に十一のお顔がある、独特な密教ならではの仏様です。
この十一のお顔でもって、我々がこの世界のどこにいても優しく見守ってくださる。そんな仏様です。木造仏でございまして、大体1000年代に作られたといわれていますが、本堂の中で火を焚く護摩行をしていたので、漆を塗っているような、ちょっと煤けたお姿ですけれども、それもまた味になっているのかなと思います。
左手に花瓶、その中に蓮華の花が挿してあるんですけれども、その蓮華の花が我々の心、信仰心を表していて、我々の信仰心が蓮華の花のように花開くように、それを見守ってくださる。そんなご本尊です。光背が非常に明るく、吉野さんも苦心いただいたと思います。

十一面観世音菩薩像
 

吉野氏照明のデザインとしては、器具はバーライト(MC-LED4 HR 3000K)と、ちらっと見えている小さいスポットライト(R-EX24 3000K)の2種類で全体を照らすような形にしています。光学レンズ付きのLEDライン照明をどこからも見えないような位置に隠し、全体をやわらかく照らしています。このライン照明を置くことで、全体が浮き上がっているように見えています。
そして小さいスポットライトを3〜4つ光背に当てているんですが、それだけでここまで綺麗に光るというのはちょっと驚きでした。
2〜3Wの本当に小さい光を光背だけに当てるという計画です。これで光背だけがふわっと浮き上がるような形になって、それと仏様を全体的に柔らかく照らしている拡散光の光が相まって、全体的に柔らかい雰囲気になっています。あとは先程おっしゃられた花瓶などは物語上必要な部分ですから、これもスポットライトで照らして、細部まで見てもらえるような照明計画にしました。

住職:仏様が浮き上がったような、というのがよくわかります。素敵な照明になって、ありがたさも増しているような気がします。


吉野氏場合によるのですが、下から照らすとお顔が怖くなったりします。今回本当に柔らかいお顔で、優しい雰囲気になってよかったです。
光背に対しては一回実験させてもらったんですが、その時に小さい光を当てただけで、全体がフワッと浮き上がって、こんなに光が回るんだ、とびっくりしたんです。それは昔の人が暗い厨子の中で、小さなロウソクでも光背がきれいに光るように考えられたものなのかな、と。光背に当てた光のリバウンドでお顔全体も光るような形になるというのは発見でした。

住職:昔の人が見ていたように、窓から差し込んでくる光が光背によって集められて、そして仏様自身が光を放っているように見せる、というのは今回の吉野さんの提案ですが、昔の人もこういう風に仏様を見ていたんだな、と私も発見がありました

吉野氏:普通スポットライトを当てると、光溜りがポツポツできるんですけど、それができないんです。それは小さい光が均等にこの仏様の周りに配置できているということで、もともとこの仏様はそういう構造になっているのかなと思いました。 またこのスポットライトとの相性がすごく良かった。グレアカットフードというのが付いていて、横から見たときにもあまり光源が見えない仕様で光だけが光背に当たるようなデザインなんです。

■ 弘法大師座像

弘法大師坐像

住職:我々のお寺は真言宗で、宗祖すなわち真言宗を開かれたのが弘法大師空海様です。ですから弘法大師空海の座像、よくある一般的なお姿の座像をお祀りさせていただいております。左手には念珠を、右手に五鈷杵(ごこしょ)という仏様の知恵である仏具を持っていらっしゃるんですけれども、我々の方に見えるように少し手首を返して持っています。こちらの仏様も漆で塗りを掛けている木像仏です。
作られたのは1600年頃、江戸時代初期と言われています。ちょっとテカっとした雰囲気ですが、他の仏像と違ってこちらは実際に生存していた人間でございますので。

吉野氏そうですね。光背がないので、一歩間違うと空間に溶け込んでしまいます。それを軽減し、集中して見ていただきたいという課題がありますので、後ろの壁を黒に塗っていただきました。それでより光が浮き上がるような照明になったと思います。

住職:この黒は99.9%光を吸収する吸収するというものなので。

吉野氏:照明も、間接のライン照明で柔らかくしているんですけれど、それだけだと空間がのぺっとした感じになってしまいますので、左右に3個のスポットライトを置いてお顔と手を象徴的に照らし出すことで立体感や奥行き感、眼力の強さが表現できたかなと思います。

住職:特にお大師さんは、玉眼、木で作られた目ではなくて、後からガラス玉を入れた目になっておりますので、前に立つとドキッとするぐらいに人間味を感じます。それも陰影によって表された結果かなと。

吉野氏:そうですね。それは小さいスポットライトならではの効果だと思います。

■ 愛染明王坐像

住職:愛染明王(本堂)は密教が色濃く出ている仏様です。後ろに日輪という太陽のような灯を背負っていて、蓮華座、蓮の花の上に乗っていらっしゃるとともに、手が6本ありまして、さまざまな持物(じもつ)を持っています。中でも特徴的なのが弓と矢を持っている点です。西洋で弓と矢というと、恋のキューピッドですけれど、仏教では「弓を射ると的にすぐに当たる」ということで、願いが素早くかなう、そんな意味合いがあります。 そのことから、愛染明王は皇室から民間まで皆さんの願いを一手に引き受けてきた、そんな仏様です。大阪では特に良縁成就、男女の縁だけでなく人の縁やお仕事、役職の縁など、良い縁を結んでくれる仏様として非常に信仰のある仏様です。お顔は非常に特徴的でちょっと怖い顔をしていらっしゃるんですけれども、その力強さで我々をぐっと導いてくれる。そんな仏様です。作られたのは、大体1600年前半頃になりますね。

愛染明王坐像(本堂)

吉野氏:こちらはまた違う光背で朱の色があり、また蓮のところにも色が入ってますので、少し発色性をよくした方がいいということがありました。それで美術館などでもよく使う高演色型、色の再現性の良い、高演色タイプのLEDを入れています。それも全体的に入れているんですが、くすんだ色に見えないので、その効果が一番出ています。他の仏様と同じように光学レンズ付きのライン照明とスポットライトを入れているんですが、それで後背部分を全体的にふわっと柔らかく照らしたり、お顔や手に持っている仏具にスポットライトを当てることで、より象徴的に見えるように計画しました。それで全体が統一された雰囲気になったんだと思います。

蓮華座

住職:以前は強い光を当てたりしていたんですが、今回の照明によってここまで綺麗で鮮やかな赤だったということに気づかされました
仏様がより力強く見えるような照明にしていただいたと思います。他よりもちょっと明るさが増しているような。

吉野氏:照明的にはお顔に光を当てさせてもらっているのと、光背が赤で他に比べると反射率が弱くなりますので、やや強めに光を当てています。
それから持物もきっちり見ていただけるような照明にするため、ポイントを当てて照射していますので、全体的にはちょっと明るめになっているのかもしれないですね。凄く細かい細工が施されていますので、その辺を感じてもらえるかなと思っています。

■ 天井画

天井画

住職:お堂の中で非常に象徴的なのがこの天井画です。250を超える円の中に描かれたもので、よく見ていただくと大阪の香りが色濃く出ています。例えば大根やにんじん、きゅうりなどの野菜、花も当時珍しかった西洋のものなど、いろいろなものが描かれています。明治初期、大阪の粋な職人さんたちが日本で知られていた世界中の植物を仏様の世界に描こうと考えられた結果がこの天井画で、図鑑のように楽しんでほしいという思いもあるのかな、と。お堂の中で火を焚く護摩をしていたのでちょっとすすけているんですけれども、今回のライティングによってより一層きれいに見えるようになりました。

吉野氏:本堂の照明を計画するにあたって、一番大事な部分が「地明かり」です。それは全体的に明るく見せるということ。
一般的にはダウンライトをつけたり、スポットライトで照らしたりするんですが、それだと天井が見えなくなったり、空間が暗くなったりします。そこで今回は長押の部分に間接照明を入れて、全体的に天井を照らしています。そうすることで白い漆喰の壁が光り、空間に柔らかい光が回り、全体に明るく感じる形になっています。
かつそれが天井画にも寄っていき、柔らかく照らすことができました。こちらの照明も高演色型といわれる美術館で使われているLEDを使っているので、今までくすんで見えなかった色合いがはっきり見えます。特に緑色とか赤色の部分が綺麗に見えると同時に、より明るく広がりが感じられる空間になったんじゃないかなと思っています。

住職:吉野さんと相談する中で、シチュエーションによってさまざまな明かりがあるということを勉強させていただきまして、スポットライトも調光できるように作っていただきました。
それで朝のお勤めのときはライトをできる限り落として幻想的な雰囲気にします。調光でろうそくの明かりでお堂の中が完成するようなイメージにできますし、逆に一般拝観、特別拝観など一般の方がお越しになって仏様をご覧いただくときは、詳しく仏様を見ていただきたいのでスポットライトで見てほしいところを照らすなど、シチュエーションによってさまざまな明かりを作ることができるようになったのが、非常にうれしいですね。

長押の間接照明が天井全体を柔らかく照らす

SCF-LEDN-APL(3000K)

吉野氏:今回、全てにおいて調光がかけられるようにしています。自然光が入ってくるので、それを大切にしたいときは御本尊のところだけ明るくして、より自然に光を感じられるようにしたり、夜は全体的に明るくしたり、お経を上げるとき、美術館や学芸員の方が来られたとき等々、TPOに応じて色々な形で仏様を見ていただくことができるかなと思います。

住職:お堂を照らすにあたって、天井には照明器具を入れられない状況なので、どうしたらいいのか、そこを吉野さんと一緒に悩ませていただいたんですが、改築前にDNライティングさんと実験(図1)をしたことで、壁を照らすことによって間接照明で天井が照らされること、そしてこんなにも明るさを確保できるということがわかりました。今回もそれを踏襲して吉野さんにプランを組んでいたというのは非常によかったと思っています。

(図1)

吉野氏:このすばらしい天井画をどうしても照らしたい、というのがありました。ちょうど長押部分がコの字形に照明を置ける形状になっていましたので、それを使って天井部分を積極的に照らしたい、と。この漆喰の壁は真っ白で光壁のように輝いてくれますので、お堂全体が光ります。この光の壁と照明が相まって、影があまり強く出ず、天井画がはっきり見える、そういう照明計画ができたと思っております。

住職:こんなに明るくなるんだ、というのはやはり実験してみないとわからなかったですから、やってみてよかったです。この漆喰もおっしゃっていただいたように一番いい間接照明のポイントになったのかなと思いますから、非常にいい形でお堂を柔らかい光を包んでいただけて、とても嬉しく思います。

この事例で使用された器具

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