「令和のおしゃれなコートハウス」──照明デザイナーと建築家が設計した理想の家"HOUSE IN HAYAMIYAプロジェクト"|《第2章》
「令和のおしゃれなコートハウス」──照明デザイナーと建築家が設計した理想の家"HOUSE IN HAYAMIYAプロジェクト"|《第2章》
中庭を囲む平屋建て、やわらかな木の天井に包まれた勾配屋根のLDK、時間によって表情を変える光のグラデーション。
「HOUSE IN HAYAMIYA」は、照明デザイナー・戸恒浩人氏と建築家・堀部雄平氏の協働によって生まれた、まさに"光をまとう住まい"。本記事では、「光をまとう住まい」「昼と夜のグラデーション」「少ない光で豊かな表情を出す建築と照明」などをテーマに、おふたりに住まいづくりのプロセスを語っていただきました。

照明デザイナー
戸恒 浩人 氏

建築家
堀部 雄平 氏
›› 家の中に“縁側”を──掘りごたつのある居場所づくり
›› 光と影をデザインする、“抑制の効いた明るさ”
›› 寝室から眺める、光と風景の“静かな贅沢”
›› 建築×照明──「少ない光で、豊かな表情」をつくる技
›› “梅干しひとつ”のようなペンダントライト
■ 家の中に“縁側”を──掘りごたつのある居場所づくり
DNL:あの段差のある掘りごたつのスペース、とても魅力的でした。LDKの中に、もうひとつの「座る居場所」があるように感じました。
堀部雄平(以下堀部): LDKの床は半分がタイル、半分が木のフローリングになっていて、その境目に40センチの段差をつけて掘りごたつを設けています。 床暖房も入っていて、和室とも連続した空間としてデザインされています。お茶を飲んだり、寝転んだり、縁側のような役割を果たす居場所ですね。
DNL:まさに“お茶の間”。ご家族の集まる場所になっているんですね。
堀部:そうですね。クライアントご夫妻も、そこに腰をかけてストレッチをしたり、本を読んだり、自然に過ごされているようです。
戸恒浩人(以下戸恒):設計の初期から、「ここでくつろぎたい」というクライアントのご要望があって、それを中心に設計を進めていきました。
■ 光と影をデザインする、“抑制の効いた明るさ”

DNL: ちなみに、照明器具の種類はかなり絞られているように感じました。ペンダントライトと天井間接照明と壁面間接照明、それに必要最低限のスポットライトだけ。空間としても非常にすっきりしていますね。
戸恒:そうなんです。基本は「光の数をできるだけ減らす」。でも、“照明が足りない”とは感じさせない工夫が必要です。例えば料理の際、キッチンカウンター用に目立たないスポットを1灯だけ仕込んで、スプレッドレンズで光を広げて手元を照らすようにしています。
DNL:本当に最低限ですね。
戸恒: そうですね。僕自身、「照明器具の存在感を消したい」と思っているタイプなので。 建築の中に自然に組み込まれて、空間全体で「包まれる明るさ」になるようにしたいんです。下手に照明を足していくと、商業施設のような“非日常感”が出すぎてしまう。それは住まいでは避けたい。
■ 寝室から眺める、光と風景の“静かな贅沢”

DNL:LDKと中庭、そして寝室が緩やかにつながっていることで、家の中に奥行きが生まれていますよね。特に寝室からのビューは印象的でした。
戸恒: 実は、寝室からLDKの大きな屋根面が見えるように計画していて、そこに映る照明の“にじみ”が、すごく綺麗なんですよ。
DNL:まるで絵画のような景色ですね。
戸恒: そうなんです。さらに、LDKの屋根の頂部にはトップライトが設けられていて、そこからは空がふわっと見える。直接的に強い光が差し込むわけではないけれど、満月の夜なんかは月が見えたりして、自然との繋がりを感じることができ、すごいと思いました。
堀部:このトップライトは“空間の高さ”の中で、暗くなりがちな上部を補完するために入れました。特に北側のやわらかい光が入ってくることで、空間に対する光のバランスが保たれています。
■ 建築×照明──「少ない光で、豊かな表情」をつくる技

DNL:間接照明って、よく「住宅には暗いんじゃないか」と言われることもありますが、この家ではとても心地よく感じます。光の計画で意識されたことはありますか?
戸恒: 大事なのは、「天井をしっかり照らすこと」。 天井を照らすと、それ自体が大きな反射板になって、部屋全体にやわらかく光が広がるんです。逆に、壁面の間接照明だけだと明るさが足りなくて、空間に“陰”が出すぎてしまう。
堀部:この住宅も、実際に使っている照明の数は本当に少ないんですよ。でもその少ない光で、時間ごとに表情が変わるように作ってあって──それが戸恒さんの照明のすごさだと思っています。
戸恒: ありがとうございます。あとは光源を“見せない”ように意識しています。できるだけノイズを減らして、建築そのものが主役になるように、光は裏方に回る。 天井に穴をあけて器具をたくさん埋め込むのではなく、できるだけ要素を削ぎ落として、その分光のクオリティで勝負する、という感じですね。
■ “梅干しひとつ”のようなペンダントライト

DNL:LDKの中央に、ぽつんと下がっているペンダントライト。すごく印象的ですよね。
戸恒: あれは、空間に「親密さ」をつくるために吊るしました。勾配天井って体育館みたいに大きな空間になりがちなんですけど、あそこに光の重心を落とすことで、食事をする場所にちょっとした“居場所感”を与えているんです。
DNL:とても良いアクセントになっていますよね。
戸恒: 僕、ペンダントって“梅干し”だと思ってるんですよ(笑) お弁当にすごく美味しい白ごはんがあったとして、真ん中に梅干しがひとつあると、それだけでお弁当として完成する。 でも2個、3個って梅干しが増えたら、ちょっとバランスがおかしくなっちゃうでしょ?だから、ペンダントも“ひとつ”が大事。
この事例で使用された器具
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