文化財を傷めない、お寺の雰囲気をそのまま活かす三津寺の照明デザイン
文化財を傷めない、お寺の雰囲気をそのまま活かす三津寺の照明デザイン
2019 年秋、20-30 代の僧侶達が発刊するフリーペーパー「フリースタイルな僧侶たち#」編集部とともにDNLが取り組みをスタートした「お寺の明かりを考えるプロジェクト」。このプロジェクトの第一弾のアウトプットである大阪ミナミの三津寺の本堂の照明を改善する実証実験について、照明企画とデザインを担当したアカリ・アンド・デザイン照明デザイナー吉野弘恵氏にお話を伺いました。
#.発刊部数:毎号1 万5000 以上。Web マガジンや主催イベントも多数展開。https://freemonk.net/
照明デザイナー
アカリ・アンド・デザイン 吉野 弘恵氏
2002 年 アカリ・アンド・デザイン設立
2011 年~ ライティングデザインスクール専任講師
2019 年~ 京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科非常勤講師
目次
1.電気容量、釘やネジの使い方が難しく現場調査がとても大事
2.文化財を傷めない、お寺の雰囲気をそのまま活かすための小さく目立たない器具の選定施工
3.ミニレール スポットを配置し器具が見えないようにしながら光背やお顔を重点に照らす
1. 電気容量、釘やネジの使い方が難しく現場調査がとても大事
Q)まず最初に、お寺の照明に関する課題にはどのようなものがあると思いますか?
A)お寺は、建築が古い事が多く、お仏像も含めて歴史を持っています。照明を新規でつける場合、電気容量的に問題ないのか?また、器具を取り付ける場合も釘やネジを使って大丈夫か?などプラン上ではうまくいっても物理的に取り付けできない事が多い点が難しいところであり課題だと思います。従って、新築ではない場合は、必ず現場に行って詳細を調べる事が必要だと思っています。
2.文化財を傷めない、お寺の雰囲気をそのまま活かすための小さく目立たない器具の選定施工
Q)これからのお寺のあるべき姿に対して、照明の力で貢献できる点はどんなことでしょうか?
A)お寺の美術館化による参拝者増、新参拝者増(若い世代)が一つの貢献なのではないかと思います。そのためには、文化財を傷めない、お寺の雰囲気をそのまま活かすための小さく目立たない器具の選定施工などがポイントになると思っています。
昨今、LED は超小形でも明るくなったことで今まで照らせなかった部分に、まさに光を当てる事が可能になったと思います。今まで見えなかったものが見えてくる、新しい発見が生まれるのではないでしょうか。
3.ミニレールスポットを配置し器具が見えないようにしながら光背やお寺を重点に照らす
Q)三津寺のライティングについて照明デザイン上、大事にしたのはどのような点でしょうか?
A)お仏像などは、信仰の対象であって明るく照らせばいいというものではないと思っていますので、できるだけ器具を感じさせない事に気を使いました。光はどこから来ているのかわからないけどお仏像は優しく浮かび上がっている!それが理想的な光かなと思っています。
本尊、8体の仏様、天井画、ふすま、外からみた本堂の姿などご本尊については、今回は特別に蔀戸※1からも見えるように天蓋の前に設置されていました。その為、長押※2 の上のちょうどお顔正面のあたりの左右からミニレールスポットを設置しお顔と光背の上部を照らし、床の結界の台座の横にも見ないようにミニレールスポットを設置し床付近まである光背を下から照らし上げています。それにより光背全体が金色に発光するかのように浮かび上がりました。光背はもともと小さな光でも輝くように計算されたものだったと感じました。お顔も真正面ではなく左右から対象にスポットを配置したことで不自然な影もなく丸く優しいお顔が浮かび上がりました。
他の仏像についても祠※3 の中にミニレールスポットを配置し器具が見えないようにしながら光背やお顔を重点に照らしています。手に何か持たれているものがあればそれを照らしたりもしています。特徴的な部分は何か信仰対照的な部分もあるのでそれも踏まえて全体的に一様に照らすというよりも特徴的な部分を浮き上げるようにしています。そこが美術館とは少し違う事かなと思います。
また、天井にも天井画が施されていたことから長押※2 部分の隙間にも高演色仕様のLED を仕込み間接照明によって天井画を照らし上げています。それにより細かい絵の色の微妙な違いなどもわかるようになりました。またこの光が空間のアンビエント照明も兼ねる事で明るさ感を創り上げ心地よい空間となっています。
今回、ご本尊以外も祠※3 に照明を設置したことで蔀戸※1 越しの外からでも各お仏像が感じられるようになりました。夜間に外から境内に入ったところで蔀戸※1 越しに8 体のご仏像が浮き上がるのを見ると壮観な雰囲気を感じる事ができます。照明デザイナー冥利につきる経験でした。
用語解説
※1 蔀戸:しとみど・中央に板をはさみ,その表裏に格子を組み込んだ建具。日光,風雨,寒さ等を防ぐもので,普通上下2枚に分かれ(半蔀(はじとみ)と呼ぶ),上半は長押(なげし)につり,下半は掛金で留める。開放時は上半を金具にかけ,下半は取りはずす。
※2 長押: なげし、日本建築で、柱から柱へ渡して壁に取り付ける横木。
※3 祠:ほこら:仏や神を祀る小さいやしろのこと。
使用製品
【お問い合わせ・ご相談】
お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。