2023年照明学会照明デザイン賞「石川県立図書館 のタスク&アンビエント照明」深掘りインタビュー《後編》
《後編》書架自体が建築の一部になる「タスク&アンビエント照明」
石川県立図書館の照明デザイン実践編石川県立図書館は2022年、以前からあった図書館の老朽化に伴い、移転・新築された新しい図書館である。イベントなども開催できる屋内広場や飲食可能な文化交流エリアはもちろん、4階まで吹き抜けの閲覧エリアは緩やかなスロープでつながる圧巻の空間。全てにおいて新しい概念で作られたこの図書館で、照明デザインはどのように考えられたのだろうか。株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ ディレクターの村岡 桃子さん、シニアディレクターの窪田 麻里さんに実際の照明デザインから施工に至る具体的なエピソードについてお話を伺った。
ディレクター
村岡 桃子 氏
シニアディレクター
窪田 麻里 氏
›› 自分の好きなスペースを見つけてくつろいで欲しい
›› アンビエント照明のつもりが、サインに発展
›› 書架にはできるだけ均斉度の高い機能照明を
›› 地域で大切に受け継がれていくものに関わる喜び
■自分の好きなスペースを見つけてくつろいで欲しい
ーここにくる人々にどんな体験をしてほしいと思いますか?窪田氏:この図書館の中には、従来の図書館にはない多様なスペースがあるので、自分の好きな場所を見つけてくつろいでいただけたらいいな、と思っています。最近の図書館は静かなだけではないので、おしゃべりする場所もありますし。今回、家具は川上元美さんが手がけているのですが、一日をここで過ごせる場所になるといいと思います。
ー造作と照明との兼ね合いというのも結構考えて造られたのでしょうか。
書架の背面のキャレルでは、開いた本がきちんと見えるかなど、じっくり計画しました。照明器具も数量が多く、デザイン視点のみで全てを決められないのですが、什器デザインとの調整も踏まえ綿密に調整を重ねました。
ー照明デザイナーさんは納まりを一番気にしてらっしゃる印象なのですが、このプロジェクトの場合はそれがとてもうまくいっている気がします。その点はいかがでしょうか。
窪田氏:照明を家具に納めるのはタイトなこともありますし、初期段階から考えていないと難しいことも多いと思います。石川県立図書館の場合はどう照明を付けるかも含めて建築全体の大きなコンセプトがあるので、非常に納めやすかったです。物量としてはすごいものがあるのですが、照明を含めた什器として考えられたプロジェクトで、照明がキモだったので。
窪田氏:400ルクスくらいでしょうか。
ーテーブルがツヤのある素材のようですが、映り込みを
考えて素材を変更してもらうなどのケースはありますか?
村岡氏:そういうこともありますが、今回は一般的な範囲のツヤ感でした。
窪田氏:雑誌のようなツヤのある本の場合は光幕反射グレアが起こるような納まりではあるので、ページの素材によってはやや見づらかったりするのではないかという懸念はあって、ここはもう少し方法があるのかなと思っていますが、実際机を見るわけではなく本やノートを見るわけですから、利用者を考えるとそれよりも耐久性の方を考えました。
■ アンビエント照明のつもりが、サインに発展
▲上階から図書館を見下ろすと、書架の上に照明が並び独特の雰囲気を醸し出しているー書架の上に照明がのっていますが、こちらの仕上がりイメージはどのようなものだったのでしょうか。
窪田氏:書架の上部には天井が掛かっていて、そのままだと吹抜け部に比べて暗い印象になってしまうので明るくしたい、それなら書架に照明をつけてしまおう、と。上から見下ろす場合もあるので、輝度調整した光を見せてもいいかな、と思いました。ルーバーを入れて見えなくするという手法もありますが、今回はそうしませんでした。
ー天井からも照明が落ちていて、書架の上にも照明があるので両方の効果を狙ったということですか?
窪田氏:天井にはなるべく照明はつけたくない、というのはありました。
村岡氏:書架の上の照明は、私たちとしてはアンビエント照明としてのみ使う、という計画でしたが、最終盤になってここにサインが設置されることが判明しました。サイン計画主導で発光面にフィルターをかけて色をつけ、ゾーニングを視認できるようにするという予想していなかった発展をしました。
ーこの照明にはかなりアイコニックな印象を受けました。
この照明は機能的にはどのようなものを実現しようと考えていたのでしょうか。
窪田氏:アッパーライトは天井面を照らし上げて、あとは反射で。天井にダウンライトがいっぱい点いているよりは、木ルーバー天井を綺麗に照らすことが適していると考えたのです。ここにSCF-LED-APLの3000Kを使ったのは、それなりにパワーがあること。それから書架やキャレルは電源を別にしているのですが、なるべく納まりが良いものを使いたくて。
長さの制約はあったけれどコンパクトで光量もある。電源内蔵でそこそこ小さくて、長さの種類もあるというところもいいですね。
この書架の上の照明は、上から見ると曲線のように見えますが、書架自体はユニットごとに直線で、一つの書架に一つずつ照明を納めています。曲線の照明(テープライト)という選択肢もありましたが、それだと必要なルーメン数が出なかったのと、あとはコストの面もありまして。
空間の特性上、様々な視点場から書架上のアンビエント照明の発光面が見えてしまう状況になります。近いところで見ても不快なグレアにならず、遠目でもアンビエントの総量としていい感じだというところですね。とても贅沢なものだと思いますが。
■ 書架にはできるだけ均斉度の高い機能照明を
ー機能も満たしつつ、意匠も優れているということですね。書架の、本を照らす部分(写真下)の仕上がりイメージはどのように考えたのでしょうか
本の並べ方や書架の奥行き・段数によって変化もしますし、また途中につけた手すりで光が遮られる場所もあり、そこにも照明を入れなくてはいけないなど、さまざまな相談をしながら進めました。
求める機能としては、面にできるだけ均斉度の高い機能照明を与えるということ。その中で安全性なども考え、書架からどのくらいの出幅をみられるか、木材の厚みの規格から深さをどのくらい確保できるか、という条件が出てくるので、しっかりした明るさを確保できる照明器具を選んでいきました。
窪田氏:なるべく下の段まで光を届かせたいので、書架照明はできるだけ持ち出したほうが良いわけですが、見た目もインパクトがでるので、持ち出しは最小限にしながら納まるサイズの照明器具を選びました。長さがあるのでそんなに明るいものである必要はなかったです。
ー本の背表紙を見せるもの、表紙を見せるもの、また本も色が多様で個性がありますが、その辺りの難しさはどうですか。
村岡氏:書架の照明は、今回の形になるまでにいくつも考えました。書架の縦桟に沿わせたものがいいか、両側から持ち出してピクチャーライトのようにするのがいいかなど、さまざまなデザインの検討があって、この形に落ち着きました。
ー石川県立図書館のように「どこにいても本が見える図書館」というのは一般な図書館と違いますし、
照明も難しい面はあったのではないでしょうか?
窪田氏:機能的にはそんなに違いはありません。求められる機能は背表紙が見えるということと、その場で本を開いた時に読める、ということなので。ただし島型に並んでいる一般的な図書館というのは全般的にどこもかしこも明るくする、ということが多いので、天井に照明をつけて、向かい合った本棚と本棚の間を明るくしてどっちの面も照らすということになります。今回の場合は書架の照明自体が建築を見せる照明にもなるので、その点が一般的な図書館と違うところでしょうか。
ー器具の選び方としては何が大事でしたか?
村岡氏:サイズと、必要な光量がしっかり取れること。MC-LED4 DとXC-LED2を選びましたが、XC-LED2においては納まりが難しかったですね。
村岡氏:十分な照度供給が必要な個所であるため、慎重にモックアップ検証を行いましたが、最終的には全体像として綺麗ですごく良かったです。
ーそういう空間の場合、照明のポイントはどういうところにあるのでしょうか。
窪田氏:近いところにある、ということ。自分のゾーンだけを照らすというか。他は繋がっている光だけれど、ここは近いところだけを照らす感じです。
ー色温度については、どんなところがポイントでしたか?
村岡氏:色温度に関しては、県とさまざまなやりとりがありました。当初、色温度を高めにして欲しい、という要望がありました。かなり時間をかけたやりとりを通して、居心地を作るアンビエント照明は3000K、機能照明については4000Kに決定しました。この写真を見て温かみがあると感じてくださる方が多くいるので、最終的にはいいところに落ち着いたのではないかと思っています。キャレルは機能照明として4000Kで、基本的には書架を照らすものと同じものを使っています
ー利用用途による空間づくりについて、県は会話したりくつろいだり、ということを考えているようですが。
村岡氏:例えばこの籐の椅子が下がっている部分(写真左)では、外光も明るく昼間は特にタスクライトは必要ありません。
こどもエリア(写真右)では、子供たちがハンモックのようなところで本を読んだり、読み聞かせてもらったり、ただくつろいでいたりします。全体として寛容な受け皿でとても雰囲気がいいです。館内のどこにおいても色々な許容度、空間の表情があればいいなと思っています。
ーこの図書館の事例を参考にしてほしい、こんなところにも利用して欲しいというのはありますか?
村岡氏:公共施設であるということで細やかな要求はありましたが、いわゆる既成概念を拡張できた部分はあると思います。そういう点では今後、色々な選択肢が増える事例の一つであったらいいなと思います。
窪田氏:公共施設はあらゆる人が利用するので、色々な意見があると思いますが、そういう中で運用・運営される方も使う人も、個々の良さを理解してくださっていますので、照明手法とは別に 空間として利用しやすいものになるといいなと思っています。最近は書店も減っていますから、より本を求めて図書館に集まる人が増えるといいですね。
地域で大切に受け継がれていくものに関わる喜び
ーこの案件のユニークなポイントと、苦労した点などを教えてください
窪田氏:この青い天井は前田家の成巽閣の天井の群青色、赤い部分は弁柄で、どれも加賀五彩という伝統色を使っているのですが、天井の青は最初からの計画にあったわけではなく、最終的に仙田先生が選んだ色です。ちょっとびっくりしましたが、このチョイスが素晴らしいと思いました。ここは書棚から照らされているわけでなく、天井近くのキャットウォークから照らしています。昼間は外光も入ってきますが、綺麗に見えるといいなと思っています。
村岡氏:設計のプロセスも複雑ですし苦労はたくさんありました。様々な点において前例のない図書館計画であったので、色温度計画一つとっても信頼を勝ち得ることが非常に大変でした。
結果としては一緒にそのプロセスを経験してきた県の人たちも良かったと思ってくれているそうですし、来館する人たちが喜んでいる風景を見て嬉しいです。何より地域で大事にされ受け継がれていく、そういうものに関われたことがとてもありがたいと思います。
窪田氏:ここを日常的にみなさんに使っていただけると嬉しいですね。
この事例で使用された器具
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