CASE-1 沖縄県宮古島 「the rescape(ザ・リスケープ)」

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2020年以降のホテルデザインを探る

Speaker:UDS 中原典人氏
モデレーター:月刊「商店建築」副編集長 車田創氏

車田:本日は「2020年以降のホテルデザインを探る」というテーマで、UDSの中原典人氏にご登壇いただきました。前半に中原さんが手がけられた3つのホテルをご紹介いただき、後半は図面をみながら細かいプランニングについてお聞きしていこうと思います。中原さん、よろしくお願いいたします。

 

CASE-1沖縄県宮古島 「the rescape(ザ・リスケープ)」

概要

CASE-1沖縄県宮古島

 

中原:立地は沖縄県宮古島で、リゾートホテルになります。41室の大半がヴィラ棟になっていて、各部屋の前に専用プールが付いています。ちょうど目の前にビーチがあります。こちらが全体の概要なのですが、レセプション棟を中心にその両側にヴィラやコテージが並びます。敷地の一番奥には共用のプールテラスもつけています。レセプション棟の2階にはレストランが入っています。背後を原生林に囲まれ、目の前がビーチという自然に包まれたロケーションになっていて、道路からもよく見えないため、隠れ家のような雰囲気です。車でアプローチを降り、宿泊する客室それぞれに駐車できるようになっています。

 

考え方・コンセプトについて

沖縄県宮古島

 

中原:自然との共生ということで、この写真を見てもわかるようにぐるりと海と山に囲まれています。「リスケープ」とは「リトリート」と「エスケープ」を掛け合わせた名称で、都会から離れ、日々の慌ただしさから逃げ出してここでゆっくり過ごしてリフレッシュして、日常に帰っていく。また疲れてきたらここに戻ってくるという、ゆっくり滞在してバカンスを楽しむというコンセプトを内包しています。

車田:ターゲットは国内メインですか?

中原:海外の方も視野に入れていますが、メインターゲットは国内の40代中盤〜50代くらいまでを想定しています。普段は仕事を頑張って忙しい日々を送り、たまの休暇でゆっくり鋭気を養いたいという時に使って欲しいと考えています。多くの客室にはプライベートプールもついているのでファミリーもターゲットとして考えています。ここからはCGでご説明します。設計を行う中では制限があり、苦労したことも少なくありませんでした。例えば花ブロックが構造的に厳しかったり。

車田:花ブロックって何ですか?

中原:沖縄特有のブロックで、通気性がありながら木陰も作ってくれる沖縄では伝統的な建材です。レセプション棟の1階にロビーラウンジやバー、ギャラリーショップがあり、2階がレストラン、地下1階には屋外ジャグジー付きの客室になっています。

車田:「ホテル カンラ 京都」のように掘り込んだプランですね。

中原:そうです。レセプション棟は既存の空間を生かしながら、沖縄のアーティスト達とコラボレーションして、いくつかポイントごとに沖縄らしさを表現しています。ここは座ってチェックインをする場所になります。各ヴィラ棟は山、水、緑の3つをテーマに全体の建物を構成して、なるべく建物が自然の中に溶け込むような建築と外構デザインを計画しています。客室の中はどちらかというとリゾートのゆるい雰囲気を出していこうと、ライティングデスク、その先にリビングエリアを設け、目の前にプールが見えて部分的に海が眺められる場所もある。自然をゆっくり楽しんで、環境が室内に入り込んでくるイメージでデザインしています。ここは敷地の広さを生かし、豊かに外構を取り入れるプランとしました。バスタブの中からプールが望めます。家具関係はうちで全てデザインし、浴槽や家具はインドネシアや中国で製作しました。プールやお風呂から外にアプローチできます。インバス、アウトバス両方が付いている部屋もあります。バリなどの海外リゾートに行けばこうした形態は珍しくなく、非日常を感じる装置として機能します。一番奥にあるスイートヴィラなど大きなプールが付いていて、そこでスパなどを受けることもできます。ちょうど視界が開ける場所だったので、ここだけ位置を決めて海を眺めるための特別な客室を作り、ここからマリンアクティビティに出かけることができます。

 

アートピースについて

車田:防風林をいじることはできないのでしょうか?

中原:基本的にできません。沖縄は台風の影響をものすごく受ける土地なので、防風林がないと建物は壊滅的な被害を受けてしまいますから。アートは沖縄で活躍されるアーティストとコラボレーションしました。陶芸家の大嶺賽清さん、沖縄クバを使ったアーティストの小川京子さん、ガラス作家のおおやぶみよさん、藍染の洋服やバッグを作るファッションブランド、レキオの嘉数義成さんといった方々の作品をホテルの中で展示したり、レストランの食器や客室の照明として使用させていただいています。

車田:今回はこの4名以外にも沖縄のアーティストが参加しているのですか?

中原:この4名だけです。沖縄を代表する方々に集結していただきました。

車田:UDSの中でアーティストに案件を相談する専任の部署があるんですか?

中原:su+ (スプラス)というプロダクトチームがありまして、彼らと我々設計チームがアーティストと一緒にどんなものを作っていくのか協議していきました。

車田:アーティストは全員沖縄の人なのですか?

中原:弊社のプロジェクトは毎回そうなのですが、グラフィックでもアートでも、京都の物件なら京都ゆかりの人、東京なら東京、沖縄なら沖縄というようにその土地の風土を理解して制作活動を行なっている方にできるだけお願いしています。なぜなら彼らは地元のネットワークがあり、ホテルが実働した時の運営にも関わっていただける可能性があるからです。プロジェクトが成功すれば、次のホテルの企画でも一緒に仕事をするという話にも繋がっていくので、アーティストとのコラボレーションは、弊社でも大事にしている部分です。

 

設計思想について

車田:図面を交えながら細かく伺っていこうと思います。では、最初に戻って「the rescape」から。ここは1階ですね?

レセプション棟の1階でメインのエントランス

 

中原:はい、レセプション棟の1階でメインのエントランスになります。入り口を入って、まずチェックインなどの手続きを行うロビーラウンジがあり、その反対側にバーを作りました。2階にレストランがあるので、そことイメージを変えるために1階はバーのような雰囲気に仕上げました。1階の外側には水盤があって、その視界の先に海が見えます。このあたりはアウトドアリビングの利用をイメージして、ファイヤーベースを置き、リゾート感を演出しました。

車田:中原さんは、いつもどこからレイアウトを考えるのでしょう?

中原:プランニングをする時にまず考えるのは、場面転換です。入り口を入って右を向くのか、左を向くのか。その先に何が見えるか。座ったときに真正面に何が見えるのか。建築関係者は空間全体を俯瞰したり、ディテールを見ると思いますが、お客様に印象を残すためには、目線を考慮しなければなりません。お客様がどういう風に目線を配るかというと、天井や床といったあまり細かいところはほとんど見ないんです。よく宿泊された方に「あのホテルのロビーの天井は何色だった?」と聞いてもよく覚えていないことが大半ですからね。設計者は「この壁を白にするか黒にするか」とよく議論になるのですが、悲しいかなお客様は意外とそういうところまで見ていないんですよね。それよりも入った瞬間に正面にどんな景色が見えたのか、アートが素晴らしかった、いい匂いがしたとか、五感に響く装置を用いたほうがお客様の記憶には残りやすい。ですから、僕たちがデザインする時には、目線と五感を起点にします。逆にそれ以外の場所はコストバランスを考えて予算をかけないようにつくります。

車田:「the rescape」でのアイキャッチポイントはどこですか?

中原:エントランスの、お客様の目線が止まる場所に、先ほど紹介した沖縄アーティストの作品を設置しました。

 

沖縄アーティスト

 

車田:アートはこのホテルのために制作されたものなのでしょうか?

中原:そうです。まずこの空間の説明をして、そこに合うアートが何かというのを一緒に議論しながら制作して頂きました。次へ進みますが、ここは2階レストランです。個室を2つ取り、ワインセラー、オープンキッチンがあり、その先へ進むと客席が広がる、という構成です。

 

沖縄アーティスト

 

車田:リゾートホテルという位置付けで長期滞在もできると思うのですが、お客は外食して帰ってくる、というよりもホテル内で朝昼晩食事を取れるようにしているのでしょうか?

中原:そうです。提供する食材はもちろん、皿やカトラリーなど、ひとつひとつこだわりながら制作しています。

車田:客席数はこれで足りますか? 外のテラスも使う想定なのでしょうか?

中原:テラス席も使えますし、2階で席が足りなくなることも想定して、1階のバーカウンターも使えるという設えにしています。

車田:なるほど。ダイニングは個室で区切らなかったのですね。

中原:個室で区切ってしまうとプライベート性は出るのですが、かなり閉鎖的になってしまいます。ご家族で来てプライベートを保ちたい人は個室を使ってもらい、それ以外はオープンエリアを使っていただきます。おそらく2人客が最も多いと想定しているので、その場合は席の間隔をゆったりととって、食事を楽しんでいただこうと考えました。次の図面は客室です。60㎡の客室で、ちょっと広めでプール付きの客室になっています。ベッドルーム、リビング、水まわりが独立しています。4人ぐらいでも宿泊できるように、リビングエリアのソファが2人分のベッドに変形します。

客室図面

 

車田:床の仕上げ材は何ですか?

中原:タイルです。沖縄ですし、目の前に専用ビーチがあるのでビーチサンダルで客室に入って、部屋に砂を持ち込むことを想定して清掃がしやすいタイルを選びました。

車田:沖縄のホテルはタイル床が多いのですか?

中原:多いと思います。この間オープンさせた宮古島の「HOTEL LOCUS」は床を全てモルタル仕上げにしました。通常のホテルなら靴音が階下に響くためモルタル仕上げはNGなんですが、沖縄の場合はビーチサンダルやフラットシューズを履く人が多いので、モルタルでも騒音の問題は全く起きていません。

 

車田:話を客室に戻します。ここはベッドとテーブルが一体化しているのでしょうか?

シンメトリー空間

 

中原:くっついているように見えますが離れています。プランニングをする上で一番贅沢なのがシンメトリーの構成です。ホテル業界において、空間がシンメトリーになっているのが高級リゾートホテルというのが常識です。部屋が狭くなってしまうと片寄にせざるを得ない。つまりシンメトリーにできるというのはベッドの両側に通路が設けられるぐらい広い部屋だということの表れでもある。ですからホテルをプランニングするときには、いかにシンメトリーに出来るかを考えます。この客室もシンメトリーを意識したデザインとなっています。次のプランは前出の客室の形状が異なります。なぜかというと、このエリアは敷地が限られているので、全室ビーチ側に間口を取るには縦割りにしていくしかないんです。敷地の奥行きがあるところは間口を狭くして、敷地の奥行きが狭いところは間口を広くする、というようにプランニングを決めていきました。敷地の形状上、上に行けば行くほど奥行きが伸びるので、縦割りのプランになったのです。プランを見てわかるように、ここでもかなりシンメトリーを意識しています。お客様が部屋に入った時の目線を考慮して、シークエンスを意識したシーンを作っています。

車田:だからここの部屋は浴室から見たときの眺めがシンメトリーになっているんですね。そしてこの部屋は水まわりが2つ用意されています。

 

ダブルシンク

 

中原:高級リゾートになればなるほどダブルシンクは常識で、個別で使えるから便利なんです。バリの高級リゾートへ行けば、大半がダブルシンク仕様ですよ。

車田:なるほど。ダブルシンクは贅沢さの表現でもあるわけですね。照明は沖縄のアーティストの作品ですか?

中原:はい。リビングの照明はガラス作家のおおやぶみよさんが制作してくれました。だんだん奥に行けば行くほど大きくなっていて、かつ分かれている。これで1棟。先ほどの部屋よりもグレードが高く、ダブルシンク、インバス、アウトバスもついています。奥にはプールもある。大きなリビングエリアとプライベート性が高いベッドルーム、という構成です。

車田:ここはリビングの一部に壁をつくっていますよね? 壁がない方がビーチに向かってバーンと視界が広がるのではないでしょうか。なぜここに壁をつくったのでしょうか?

中原:考え方は色々あると思っていて、正解はありません。CGやスケッチアップで様々なシーンを検証するのですが、僕が大切にしたのは扉を開けて部屋に入ったときにどう見えるのか、ということです。部屋に入った瞬間にどこまでストイックなラインを見せて、ジェームス・タレルのような切り取られた美しいシーンが見えるのかというのを意識してデザインしています。ですから壁であえてアプローチを伸ばして、パッと視界がひらけたときの感動を味わって欲しいと思いました。もちろん社内で議論を重ねていて、車田さんがおっしゃるように壁がないことで広がりを生む手法もあるし、逆に導入部を設けて驚きを与える手法もある。今回は部屋としては広いので壁を効果的に使うことでサプライズ演出をしたというわけです。

車田:「the rescape」の客室を今回いくつかご紹介していただいていますが、どれもシークエンスを意識して、視線の抜けによって何を見せたいのか、それが丁寧に設計されていることが伝わってきました。

中原:アートの置き場所にもこだわっていて、TV、家具などの配置も考慮して、アートをちゃんと見られる場所を、壁をつくって展示場所を確保しています。

車田:アーティストには部屋のコンセプトや描いて欲しいテーマなど、細かく打ち合わせされるのでしょうか?

中原:こちらのコンセプトはきちんとお伝えします。「ホテル アンテルーム 京都」を作ったときに、アーティストとかなり密に議論を重ねたことが経験値として大きい。アートの置き方をはじめ、余計なものはいらない、アートとちゃんと対峙して欲しいと常々話していました。アートと向き合うためには頭上にペンダントライトは不要だし、アートの近くに余計な情報はなるべく排除すべきだと。「ホテル アンテルーム 京都」の設計で、アートにきちんと向き合える場所作りを突き詰めて考えた経験があるので、「空いている壁があるからアートを飾る」という発想自体がNGなんです。今回もアートありきで場所を決めていきました。次の部屋に行きましょう。ここは敷地の奥行きが最も狭いので、間口を広くするしかありませんでした。新築で、100平米ある広めの部屋で2ベッドルームあります。間口が横長のプランなので、入った瞬間から外の風景が見えて自然を身近に感じられる部屋になっています。ここもラインを揃えてシンメトリーを意識しています。

車田:僕はこれまでUDSのホテルを数々見ているのですが、今までは狭い客室の中の工夫を見つけるのが好きだったのですが、こういったラグジュアリーな空間においてもシンメトリーな構成だったり、見るべきポイントがたくさんあって面白かったです。

中原:日本人は広い客室に慣れていないんです。あまりにも広すぎると「ここに何か入れなきゃ」と思ってしまいがち。リゾートホテルの設計ではそこをぐっと我慢しないといけない。世界の高級リゾートを見てみると、廊下も広いし、ベッドルームも広い。かといってそこに何かを置くわけではない。その間の取り方が居心地を生むのです。僕は、こうした間の取り方がこれからの日本のホテル設計で意識しなければいけないポイントだと考えています。最後に紹介した部屋も4人ぐらいで使用する想定ですが、入れようと思えば6〜7人泊まれて収支的には良いのですが、ぎゅうぎゅうでリゾート感がなくなってしまう。最初はそれで良くても、長期的な目で見たらブランディングとしてもそれがいいとは言えない。ですから、運営においても余白のつくり方というのがラグジュアリーホテルにおいて大切にしたい部分です。

 

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