CASE-2 新宿五丁目 「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」

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Speaker:UDS 中原典人氏 モデレーター:月刊「商店建築」副編集長 車田創氏

 

車田:本日は「2020年以降のホテルデザインを探る」というテーマで、UDSの中原典人氏にご登壇いただきました。前半に中原さんが手がけられた3つのホテルをご紹介いただき、後半は図面をみながら細かいプランニングについてお聞きしていこうと思います。中原さん、よろしくお願いいたします。

 

CASE-2 新宿五丁目 「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」

概要

 

中原:旅館の情緒的な雰囲気とホテルの使いやすさを合わせようと考えた宿泊施設です。「日本の旅館の雰囲気はいいけれど、夕食と朝食がついているのはちょっと重い」「もっと気軽に立ち寄れる宿にできないか」「逆にビジネスホテルはそこで夕食をとることができない不便さがある」といった旅館とホテルのメリット、デメリットを考慮して、それならば旅館の良さとホテルの便利さだけを足した、新しい宿泊施設ができないかと発想したのがこのプロジェクトです。

車田:なぜ新宿という場所を選ばれたのでしょうか?

中原:もともと新宿で宿泊施設を作りたいという思いがありました。バスターミナルもあって多くの外国人がやってきますし、彼らは歌舞伎町などの繁華街に、日本人の視点とは違った日本らしい情緒を見出していることがとても興味深いと思っていたんです。ゆくゆくはこのブランドを育てて、他の場所でも展開していこうと考えています。ここは新築で内装デザインも全て弊社が行なっています。旅館自体は18階建で背が高く、それをそのままビルのように建ててしまうと都内のホテルと同じになってしまいます。そのスケール感を消すために、1階に料亭のような佇まいのファサードを用意しました。

ONSEN RYOKAN 由縁 新宿

 

考え方・コンセプトについて

車田:1階はだいぶ贅沢な空間の使い方をしていますね。敷地いっぱいに使って客室を増やすという選択もあったとは思うのですが。また新宿という人通りの多い場所ですから、1階はガラス張りにして内部の賑わいを見せるという手法も考えられたと思うのですが、ここでは完全に閉じられています。なぜでしょう。

中原:建物は容積的には目一杯で、うまく土地利用をしながら空間を使っています。車田さんがおっしゃるように、1階は塀で囲まれて中が見えないつくりになっていますが、実は社内でもここはかなり議論を重ねた部分でもあります。普段だったらガラス張りのフルオープンにして中を見せて、道行く人に「中に入ってみよう」と思わせるプランにすることが今までの定石でした。けれども、「旅館はフルオープンになっているか」と、最初のテーマに立ち返ったわけです。我々がイメージする旅館らしさとは、なんとなく隠れ家的になっていて、石畳のアプローチを歩いて徐々に非日常空間に入っていく、そんな入り口なのではないかと思い至りました。改めて最初に立てたコンセプトに沿って計画していくことを重視し、長いアプローチを歩かせて情緒を感じさせる、そんな導入エリアを目指しました。新宿で事業性を高めるためには、最低限の客室は確保したい。そこでロビーは本来ならもっと広くとるところですが、コンパクトにまとめることにして、その分アプローチに沿う形でレストランをつくりました。レストランには坪庭も作られています。弊社では、企画、運営チームも交えて、設計の骨格をつくるのですが、「宿泊客への朝食の提供だけでなく、昼も夜も稼働させるのか」というのは、毎回社内で議論になるテーマです。仮に食事は提供しないということになっても、いつでもサービスが開始できるように厨房設備などは整えておきます。設計ではいつも余白をつくることを大切にしていて、フレキシブルな変化に対応できるようなつくりにしておくのです。「ホテル アンテルーム 京都」でも、最初にDJブースやバーカウンターを作っておいてしばらくは稼働させていませんでした。ホテルとして認知されてきた数年後にやっと稼働させたということもあります。

ONSEN RYOKAN 由縁 新宿

 

車田:話を戻して「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」のレストランは宿泊客以外のお客様も使えるようにするのですか?

中原:朝食は宿泊客のみ。昼と夜は一般のお客様もご利用いただけます。プランに戻って、ここは廊下です。かなりシンプルに作っています。客室は基本的にコンパクトルームで構成し、部分的にスイートルームを設けました。お客様はネットエージェントを介してホテルを決めるケースも少なくないので、バリエーションを増やしどんな大きさでも検索にヒットするようにしたいと考えています。ビジネス利用で使える15平米位の客室やカップルで泊まれる30平米位の部屋など、さまざまな客室を用意します。最上階にある大浴場には箱根から温泉を輸送して、新宿にいながら温泉に入れるというサービスを提供します。

 

設計思想について

中原:ロビーは図面を見て分かるように、入口を潜り、長い路地を通して建物に入り、そこから奥にぐーっと進んでチェックインをする、という動線を取っています。

由縁 新宿ロビーの図面

 

車田:新築なのに思い切ったプランですね。アプローチの壁を挟んだ向こう側にはレストランがありますが、窓ひとつありませんね。

中原:はい、思い切って窓はなくしました。社内で何回も議論したポイントです。開口部を設けるパターンもスタディをしてみたのですが、最終的に「本物の旅館の入口ってどうなっているか。窓はないんじゃないか」と行き着いて。日本には増築を重ねて迷路みたいになっている旅館がありますが、そういう風にアプローチを歩かせるのも情緒を感じる装置になっている気がするんですよね。「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」もあたかも増築したかのように、動線をつなげていくプランニングにしました。そして、逆にチェックインは宿泊特化型のビジネスホテルのようにコンパクトにしています。

車田:図面を見ると縁側的な座席があって、そこに座って休める場所があります。ラウンジスペースは広そうですが、コンパクトなんですね。

中原:そうですね、意外とコンパクトです。

車田:客室数に対してこのカウンターは十分なのでしょうか。 このプランにしたのはなぜでしょう。

中原:事業性も含めての検討ですが、ここに行き着くまでにはだいぶ悩みました。どうやってチェックイン、チェックアウトをしていただくか。並ぶことをどうやって回避すべきか、というのは今も議論を続けています。

車田:プランニングを終えた後でも議論して改善策を練られるというのは、運営もやられている御社の利点ですね。

中原:確かに、弊社は企画・設計・運営が三位一体でやっているので、「一回このやり方でチャレンジしてみよう」「ダメだったらこう変えてみよう」と社内で柔軟に対応できるのは他社にはないメリットだと思います。

車田:最近はチェックインカウンターが無人化して、専用の機械でチェックイン、チェックアウトを済ませられるシステムを導入しているホテルが増えています。その流れはどうご覧になっていますか?

中原:無人機は随分と増えています。設備の導入は長い時間をかければ投資回収ができるのでランニングコストをかけるのはいいんですが、その機械でどこまでのサービスが提供できるのかが重要だと思っていて。僕は人が介在しなくなったときに、ちょっと寂しさがあるな、とは感じます。人と会話をすることで「またこのホテルに泊まりたい」という動機が生まれるかもしれないし、ましてや旅館の場合は、「またあの女将さんに会いたいな」というのは宿泊の動機になる人も多いでしょう。そういうことを考えたときに、まだそれは機械には真似ができない部分かなと思います。

車田:フロントスタッフはコンシェルジュ的な役目も担っていますよね。

中原:最近のホテルって、ハードだけでは立ち行かなくなっていて、お客様はそこでどんな体験ができるのかを求めてホテルを探しています。ですから運営側がどんな体験をしてもらおうか施策を持つことが大切です。

車田:「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」の近くには、御社が運営する「INBOUND LEAGUE」というコワーキングスペースがありますね。そことの連動もすでに考えているのでしょうか?

中原:はい。「INBOUND LEAGUE」を通じて、海外の旅行者に向けた新しいツアーを企画したいと思っています。ちょうど弊社は中国(上海・北京)、韓国、スリランカでホテルプロジェクトを手掛けているので、そことも連携しながらインバウンド向けに面白いツアーが組めたらいいなと。新宿にはかなりの数の外国人がやってくるので、インバウンド向けのサービスは意識しています。

車田:「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」の海外、国内の旅行者の比率はどのように想定しているのでしょうか?

中原:最終的には50:50ぐらいの割合を目指しています。やはり認知されるまでに時間がかかりますから。外国人は口コミでホテルを選ぶ傾向があるので、一回泊まってもらえたら「あのホテルは良かった」という情報がSNSなどで拡散されるはずなので、まずは認知を広めたいですね。脱線しましたが、プランに戻りましょう。ここが和食レストラン「夏下冬上」です。

ONSEN RYOKAN 由縁 新宿

 

車田:天井高はどのぐらいありますか?

中原:低いところは2200mm、高いところで5mぐらい。天井を思い通りに設計できるのは新築ならではの良さですね。次に客室を見ていきましょう。ここは12㎡の部屋です。客室としては結構コンパクトで、800×800mmのシャワールームがあって、小上がりの上にベッドを置いて、靴を脱いでその上で寛いでもらいます。

客室プラン

 

車田:外国人は小上がりに対する抵抗がありませんか?

中原:日本に来る外国人旅行者を見ていると、日本の文化として靴を脱いで小上がりの上に上がることへの認知は広がっているように感じます。この間お座敷のある居酒屋で、当たり前のように靴を脱いで上がってくる外国人を見かけました。「日本では靴を脱いで上がる」ということを意識されている外国人は増えていると思います。

車田:洗面をバスルームの外に出す、というのも意外に使いやすそうですね。

中原:そうですね。窮屈なところで身だしなみをするよりは、広い場所で使えた方が便利です。

車田:洗面の横に椅子がありますが、座面の高さは?

中原:350mmです。

車田:ちょっと膝が立つような高さですが、なぜこの高さにしたのでしょう?

中原:和の空間なので、座高は低くしたいという思いがあって、400mmだと洋式の印象が強くなるので、座るのに負担がなく、和の印象も崩さないギリギリの高さということで350mmに設定しました。

車田:なるほど。この椅子の高さから逆算してテーブルの高さを決めたのでしょうか?

中原:そうですね。ただ洗面の高さが決まっていたので、あまりイレギュラーな高さ設定にはしていません。

車田:客室で一番気になったのが窓です。新築でありながら、この開口部の小ささは思い切っているなと感じました。窓を大きく取るのではなく、あえて小さくしたのはなぜでしょうか?

中原:低い位置に窓を持ってきて、座ってみると正面に外の風景が見えてくる。小上がりの上に床座で過ごしてもらうこともあったので、窓の大きさは小さく低めに設定しました。

車田:高さはどのぐらい何でしょう?

中原:床から窓のトップが450mmぐらい。窓の高さは250mm程度です。

車田:寝る時は窓の外が気にならず、座ったときには外が気持ちよく見える、という絶妙な逆さですね。

中原:夜は新宿の夜景が見えてくるので、東京らしい風景を楽しんでいただけると思います。次に、25㎡の部屋は入り口を入って靴を脱ぎます。大きいスクエアの空間の中に縁側のような小上がりを作っていて、和の雰囲気を演出しています。

客室プラン

 

車田:こうやって見ていると、高さを変えた立体的なデザインが多いですね。

中原:「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」は和のテイストが強いので、全体的に低め低めに設定しています。ベッド高も座椅子の高さも照明も全て低めにして、要素を低い位置にまとめるように構成しました。立って過ごしてもらうのは一瞬で、基本的には座って過ごしてもらうことを想定しています。次はスイートルームですね。先ほどお話したように、我々がホテルを作るときには必ずスイートルームを作って、大人数で泊まりたいグループにもファミリーにも対応できるようにしています。入口を入ってすぐに書院のような空間があったりして、他の部屋に比べて機能をプラスしています。スイートルームは他の部屋との考え方を変えていて、窓も大きく設定しました。コンパクトな部屋と広い部屋では床面積と窓の面積の比率を考えることが大切で、広い部屋で窓が小さいとその分壁の面積が増えるので、全体的に狭い空間に見えてしまうんです。

客室プラン

 

部屋デザイン

 

車田:なるほど。逆に12㎡の部屋は床が高くて窓が低い位置にあるけれど、狭いというよりは包み込まれているような印象があります。スイートルームは逆に広がりを感じます。天井は織り上げているのですか? 中原:はい。広くなればなるほどシンプルな造作ですと単調になってしまいますし、少し凝ったデザインを入れてもうるさく感じません。コンパクトな空間でデザインに凝るとうるさすぎてしまうので逆にシンプルで抜けのあるデザインを心がけています。

車田:なるほど。逆に12㎡の部屋は床が高くて窓が低い位置にあるけれど、狭いというよりは包み込まれているような印象があります。スイートルームは逆に広がりを感じます。天井は織り上げているのですか? 中原:はい。広くなればなるほどシンプルな造作ですと単調になってしまいますし、少し凝ったデザインを入れてもうるさく感じません。コンパクトな空間でデザインに凝るとうるさすぎてしまうので逆にシンプルで抜けのあるデザインを心がけています。

 

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