空間デザインセミナー|デザインのトリセツ 空間デザインの新しい補助線〈婆娑羅〉 ― 今福彰俊氏が語る「婆娑羅」の美意識と光と影 ―《後編》
《後編》照明と「耕作・編集・見える化」からひも解く、空間デザインのプロセス
前編では、今福氏がデザインの根底に据える「婆娑羅」の美意識や「際(きわ)」への考え方、そしてマーケティングを起点に、空間だけでなく人や仕組みまで含めて考える商環境デザインについて、飯島氏との対話を通して紐解いた。
後編では、そうした思想が実際の空間でどのように形になっているのか、具体的な物件をもとに探っていく。素材が持つ表情を引き出す照明の使い方や、現場で光を調整しながら空間をつくり込んでいくプロセス。さらに、デザインを「耕作・編集・見える化」という段階で捉える独自の考え方や、職人とのものづくりについても話を伺った。
そして、AIがデザインの現場にも変化をもたらすなかで、デザイナーは何を担うのか。「目利き、手利き」という言葉を手がかりに、これからのデザインとデザイナーの役割についても、飯島氏とともに考えていく。
›› 実際の物件に見るデザインと照明の手法
›› 「耕作・編集・見える化」で組み立てるデザインプロセス
›› 商環境をともにつくる「商職人」
›› AIと共存する時代に求められるデザイナーの役割
›› これからのデザインに求められる「目利き、手利き」
株式会社スーパーマニアックSSOJ正会員
代表 今福 彰俊 氏
空間デザインという枠に囚われることなく、マーケティングプロデュースをはじめブランディング、ビジネスモデル設計、サービス開発、商品開発に至るまで商環境そのものを多岐に渡りデザイン。
Restaurant & Bar Design Awards最優秀賞、A’Design Award & Competition銀賞、日本空間デザイン賞 銅賞、日本サインデザイン賞 銀賞など多数。
HP:https://supermaniac.ne.jp/
IIJIMA DESIGN 飯島直樹デザイン室SSOJ特別正会員
飯島 直樹 氏
1949年埼玉県生まれ。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン専攻卒業後、スーパーポテトにおいてバー・ラジオ、OLD NEW、無印良品青山などを手がけた。
1985年に飯島直樹デザイン室を開設。世界の中で独自の展開を遂げる、1970年代以降の日本のインテリアデザインの最前線に立った。日本商環境デザイン協会理事長 2004-2014、工学院大学建築学部教授 2011-2016。
【主な仕事】
THE WALL、伊丹十三邸、5Sニューヨーク、blupondソウル、ほぼ日刊イトイ新聞事務所、PMOオフィスビル、工学院大学ラーニングコモンズ、E139、E135、STONESなど国内外の空間デザインに携わる。
【受賞歴】
■JCD DESIGN AWARD,1995,1999,2000,2001,2006
■BEST STORE OF THE YEAR 2004,2005
■GOOD DESIGN AWARD 2009
■Asia Pacific Interior Design Awards 2015
■KUKAN DESIGN AWARD 2019
■SKY DESIGN AWARDS 2023
■FRAME AWARDS 2023

実際の物件に見るデザインと照明の手法
飯島:前編で伺った「婆娑羅」や「際」といった考え方は、実際の空間ではどのように表現されているのでしょうか。
今福:「Bar Lounge びいどろ」では、日本の原風景をインスピレーションに月・雲・野山に咲く花を表現し、ここに訪れる人々の心の琴線に触れるデザインを目指しました。天井には雲に見立てた円形のワーロンを設え、照明を当て込むことで、空に浮かぶ雲のような光のグラデーションをつくりました。
実際の現場では、照明デザイナーと一緒に何度もワーロンの高さや照明の当たり具合を変えながら調整しています。少し高さを変えるだけでも光の見え方は変わるので、実際に光を見ながら、狙ったグラデーションになる位置を探っていきました。
こうした調整は、図面やイメージだけでは分からない部分です。実際の空間で光を確認しながら、素材との関係をつくり込んでいきます。
飯島:素材によって、光の生かし方も変わってくるよね。
今福:炭焼DINING nenでは、備長炭をファサードに使った空間を手がけています。ここでも、炭を使っていること自体を見せたいわけではなく、照明によって炭から生まれる表情を見せたいと考えました。
炭は黒い素材ですが、表面には細かな凹凸や粒子感があります。そこに直進性の強いLEDの光を当てることで、その質感が浮かび上がってくるんです。
金や銀も同じです。金や銀という素材を使えば、それだけで華やかな表現になるわけではありません。光が当たるから金らしく、銀らしく見える。光の当て方一つで、素材が持っている表情をつくり込むことができます。
だから僕は、「自分の空間は7割が照明」と言っています。それくらい、照明は素材の見え方だけでなく、空間そのものの印象を左右するものだと考えています。
飯島:素材そのものの表情を引き出すだけでなく、光そのものを空間の体験としてつくることもありますよね。ほかにも、特に印象に残っている照明の事例はありますか。
今福:谷六茶菓では、「山頂の雲海」をコンセプトに、天井に白いテント生地を使って雲のような造形をつくっています。
照明では、カウンターを直接照らすのではなく、いったん天井側に光を当て、その反射光で照らす方法を取り入れました。
ところが、実際に現場で確認してみると、想定していたよりも暗かったんです。そこで照明を増やしながら、必要な明るさになるように調整していきました。こういうところは、やはり実際の現場で光を見ながら決めていくことになります。
「耕作・編集・見える化」で組み立てるデザインプロセス
飯島:実際の現場で光を見ながら調整していくというのは、最初に描いたイメージをそのまま形にするというより、現場で確かめながらデザインをつくり込んでいくということですよね。そうしたデザインは、どのようなプロセスで組み立てているのでしょうか。
今福:僕は、デザインのプロセスを「耕作・編集・見える化」という段階で考えています。最初に行う「耕作」は、その場所にあるものを耕し、デザインの種になるものを発見していく作業です。僕は、商売を成功させるためのヒントは、その人や店の「足元」にしかないと思っています。
オーナーがどのように生きてきたのか、どんな文化を持っているのか、その人や店の強みは何なのか。さらに、店が建つ土地や立地にも、その場所ならではの歴史や文脈があります。
どこかから新しいものを持ってくるのではなく、すでにそこにあるものを掘り起こし、見つけていく。そこからデザインを始めます。
飯島:集めた情報は、どうやってデザインへつなげていくの?
今福:デザインにつなげるために次に行うのが「編集」です。「耕作」で見つけたものを、どう磨いていくのかを考えます。
情報をたくさん集めても、それだけではデザインにはなりません。その中から何を選ぶのか、何と何を結びつけるのかを考え、そのプロジェクトならではの価値へと磨き上げていきます。
そして最後が「見える化」です。編集したものを、実際に人が見たり、体験したりできる空間として表現していく。
「耕作」でその場所にある価値を見つけ、「編集」によって磨き、それを「見える化」する。僕らは、その一連のプロセスをデザインだと考えています。
商環境をともにつくる「商職人」
飯島:実際に空間を形にしていくうえでは、職人さんとの関係も大切ですよね。
今福:すごく大切ですね。僕は、職人さんにも「商職人」になってほしいと考えています。つまり、ただものをつくるだけではなく、その先にある商売まで理解している職人です。
僕らが商環境をつくるのは、デザインそのものが目的ではありません。その先にいるお客様の商売のためにやっている。だから、実際につくる職人さんにも「何のためにつくるのか」というところまで共有するようにしています。
そうすると、こちらから「ここまでやってください」と指示するだけではなく、職人さんからも「ここまでやったほうがいいんじゃないですか」と、もう一歩踏み込んだ提案が出てくるようになります。
商売の目的まで理解したうえで、デザイナーと職人がそれぞれの立場から意見を出し合い、一緒につくっていく。僕は、そうした「商職人」のブレーンを持ちながら、空間をつくっています。
AIと共存する時代に求められるデザイナーの役割
飯島:ここまで、今福さんのデザインのプロセスについて伺ってきました。そこで気になるのが、デザイナーはこれからAIとどのように共存していくのか、ということです。「耕作・編集・見える化」というプロセスの中で、AIはどのように活用できるのでしょうか。
今福:AIは、特に「耕作」の段階で非常に大きな力になると思っています。僕らにとって初めて訪れる土地では、その地域の歴史や文化、文脈を最初からすべて知っているわけではありません。そうした情報を調べ、デザインにつながるヒントを探していくときに、AIを活用できます。
一方で、「編集」は、集めた情報の中から何を選び、何と何を結びつけるのかを考える作業です。AIから企画のヒントをもらうことはできますが、どれを拾い上げ、どう組み合わせてそのプロジェクトの価値にしていくのか。そこには、デザイナー自身の「目利き」が必要だと考えています。
今のところ、僕自身はその先の「見える化」までAIに任せているわけではありません。集めた情報を編集し、そこから生まれたものをどう見える形にするのかは、僕らの仕事だと思っているからです。
飯島:今後、AIがさらに進化していくことは間違いないと思うんだけど、そこについてはどう考えてますか。
今福:これからAIがさらに成長すれば、今は人間が担っている領域まで超えてくる可能性はあると思っています。そのときにどう戦っていくのかは、僕らも考え続けなければいけません。
ただ、AIを遠ざけるのではなく、味方にしていく必要は絶対にあります。非常に力強いブレーンになり得るものなので、僕ら自身が使いこなせるようにならなければいけない。
若いデザイナーにも、AIと共存しながら、それを使いこなせる人間になってほしいと話しています。AIは共存していく相手であると同時に、ライバルでもある。その両方を理解しながら向き合っていくことが、これからは必要だと思っています。
これからのデザインに求められる「目利き、手利き」
飯島:AIを遠ざけるのではなく、使いこなしながら共存していくことが重要なんですね。一方で、AIがさらに進化していくなかで、人間だからこそ担えるデザインの役割は、どこにあるのでしょうか。
今福:僕は「目利き、手利き」ということを大切にしています。「目利き」は、その店のどこに良さがあるのか、どこに強みがあるのかを見つけることです。そこを見極めて磨き上げることが、デザイナーの本来の仕事だと思っています。
そして「手利き」は、見つけたものを自分たちの手で編集し、世に送り出していくことです。表層的にかっこいいものをつくるだけではなく、その人や店が持っているものを見つけ、それを磨き、形にしていく。
これからAIがさらに進化しても、価値を見つけ、それをどう磨き、どう世に送り出していくのかを考えることは、デザイナーにとって大切だと思っています。
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