空間デザインセミナー|デザインのトリセツ 空間デザインの新しい補助線〈婆娑羅〉 ― 今福彰俊氏が語る「婆娑羅」の美意識と光と影 ―《前編》

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《前編》「婆娑羅」と「際」からひも解く、商環境デザインの思想

商業空間には、店舗や施設としての機能だけでなく、その場所ならではの価値や体験を生み出す役割があります。では、そこで何を伝え、どのように人を惹きつけるのか。その答えは、空間の造形だけにあるのでしょうか。

商環境のデザインを数多く手がけてきた今福彰俊氏は、「婆娑羅」や「際」という独自の美意識を軸に、空間のデザインだけでなく、事業やマーケティング、人や仕組みまで含めた商環境づくりを追求しています。本対談では、飯島直樹氏が聞き手となり、今福氏がデザインの根底に置く「婆娑羅」や「際」とは何か、そしてマーケティングとデザインをどのように結びつけているのかを紐解いていきます。

さらに、空間の印象を大きく左右する照明について、素材や造形と光をどのように組み合わせ、現場でどのように空間をつくり込んでいるのかについても伺いました。

 

 

 

株式会社スーパーマニアック Bar Lounge びいどろ 株式会社スーパーマニアック Bar Lounge びいどろ

tothune.jpg 株式会社スーパーマニアック
SSOJ正会員
代表 今福 彰俊 氏

空間デザインという枠に囚われることなく、マーケティングプロデュースをはじめブランディング、ビジネスモデル設計、サービス開発、商品開発に至るまで商環境そのものを多岐に渡りデザイン。
Restaurant & Bar Design Awards最優秀賞、A’Design Award & Competition銀賞、日本空間デザイン賞 銅賞、日本サインデザイン賞 銀賞など多数。

HP:https://supermaniac.ne.jp/

IIJIMA DESIGN 飯島直樹デザイン室
SSOJ特別正会員
飯島 直樹 氏

1949年埼玉県生まれ。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン専攻卒業後、スーパーポテトにおいてバー・ラジオ、OLD NEW、無印良品青山などを手がけた。
1985年に飯島直樹デザイン室を開設。世界の中で独自の展開を遂げる、1970年代以降の日本のインテリアデザインの最前線に立った。日本商環境デザイン協会理事長 2004-2014、工学院大学建築学部教授 2011-2016。

【主な仕事】
THE WALL、伊丹十三邸、5Sニューヨーク、blupondソウル、ほぼ日刊イトイ新聞事務所、PMOオフィスビル、工学院大学ラーニングコモンズ、E139、E135、STONESなど国内外の空間デザインに携わる。

【受賞歴】
■JCD DESIGN AWARD,1995,1999,2000,2001,2006
■BEST STORE OF THE YEAR 2004,2005
■GOOD DESIGN AWARD 2009
■Asia Pacific Interior Design Awards 2015
■KUKAN DESIGN AWARD 2019
■SKY DESIGN AWARDS 2023
■FRAME AWARDS 2023

hayamiya06.jpg

「婆娑羅」の美意識と「際」を追求するデザイン

株式会社スーパーマニアック 炭平別邸 季ト時 株式会社スーパーマニアック 炭平別邸 季ト時

飯島直樹氏(以下、飯島):今福さんのデザインの根底には、「婆娑羅 (バサラ)※」という美意識があるって手掛けられた物件を見て思ったんだけど。

今福彰俊氏(以下、今福):はい。僕がデザインの世界で自分なりの戦い方を考えたとき、最初から目指していたのが「婆娑羅」でした。

※婆娑羅:常識や身分秩序の形式に囚われず、派手で華美な振る舞いや贅沢を好む、自由奔放で人目を引く気風やさまのこと

日本の美意識というと「わびさび」がよく知られていますが、それとは対照的に、歌舞伎などに見られるような力強く華やかな表現も、日本の文化の中で長く受け継がれてきました。それが「婆娑羅」の美意識だと僕は考えています。

ただ、婆娑羅は単に派手なものをつくるということではありません。既存の価値観にとらわれず、そこからはみ出していくような力を持ったものです。

僕自身も後発のデザイナーとして、すでに活躍している人たちと同じことをしても勝てない。では、どこで勝負するのかと考えたときに、この婆娑羅という考え方に行き着きました。

だから僕にとって婆娑羅は、デザインの表現方法の一つというだけではありません。勝つための手法でもあり、自分自身の生き方にもつながっているものなのです。

飯島:「婆娑羅」とともに、「際(きわ)」という言葉に対してはどうですか。

今福:そうですね。僕は「際」にすごく惹かれます。歴史を見ても、新しい文化や時代の動きを生み出してきたのは、必ずしも制度や秩序の中心にいた人たちだけではありません。

社会には権力や制度、秩序があって、多くの人はその中で生きています。一方、その境界には、既存の秩序から外れた人たちもいる。歴史上「悪党」と呼ばれた人たちも、現在の言葉でいう悪人という意味ではなく、既存の秩序を力強く打ち破っていくような存在でした。

僕は、そうした中心と外側の境目にある、少し危うさを感じるような「際」に人は惹かれるんだと思っています。整えられたものの中心ではなく、その境界に目を向けると、そこにこれまでとは違う価値が見えてくる。

僕がデザインで追求しているのも、そうした「際」です。すでにある価値観の中できれいにまとめるのではなく、その境界にあるものを見つけ、どう際立たせるのか。そこに、自分なりのデザインがあると考えています。

ニッチをメジャーへ導くマーケティングとデザイン

飯島:「際」にあるものを見つけ、それを価値として世の中に伝えていく。その考え方は、「スーパーマニアック」という社名にもつながっているのでしょうか。

今福:「マニアック」というのは、僕は時間軸の問題だと考えています。今はニッチなものでも、時間軸が合えばメジャーになれる可能性がある。僕ら自身も、あえてニッチなところ、「際(きわ)」を狙ってきました。

特に、1号店や2号店を出すような事業の初期段階では、クライアントにもまだ大きな力がありません。だからこそ、ニッチなところに集中して突破口をつくる。そこでうまくボタンを掛けられれば、事業が成長していくきっかけになります。

そのきっかけをつくるために僕らが使ってきたのが、デザインとマーケティングです。それまで「裏」にあった存在を「表」に出し、人に知ってもらえる状態をつくる。それが「スーパーマニアック」という会社の出発点でもあります。

飯島:つまり、ニッチなところにある価値を見つけ、それをマーケティングとデザインによって「表」に出していく。そのことを大切にされているんですね。

今福:そうですね。僕らに依頼をいただくのは、地域の中でこれからさらに上を目指していきたいというクライアントが多いんです。そこで、限られた力をどこに集中させるのかという「戦い方」を考えます。

それまで「裏」にあった存在を「表」に出していくためには、まず人に知ってもらわなければいけません。そのときに有効なのが、わかりやすさや強い表現です。ただ、派手なものをつくりたいということではありません。表層だけが強くても、一時的なものになってしまいます。

だから僕らは、まずマーケティングから入ります。その事業の根本にあるものをしっかりと磨き上げたうえで、デザインに落とし込んでいく。表層から入るのではなく、マーケティングで磨いたものをデザインによって見える形にして、「裏」にあった存在を「表」に押し出していく。それが僕らの戦い方です。

事業の成果につなげる「商品的デザイン」の考え方

飯島:今福さんは、デザインを「作品的」「商品的」「製品的」の3つに分けて考えているって聞いたことがあるんですけど。

今福:はい、僕は商環境のデザインには、大きく「作品的デザイン」「商品的デザイン」「製品的デザイン」の3つがあると考えています。

作品的デザインは、造形としての美しさや表現を追求するもの。一方、製品的デザインは、一定の品質や機能を保ちながら標準化し、複数の店舗などへ展開していくものです。

その中で私たちが取り組んでいるのが「商品的デザイン」です。商業空間ですから、きれいな空間をつくって終わりではなく、その空間がきちんと商売につながることを考えなければいけない。僕らは「売れる場」をつくることを大切にしています。

株式会社スーパーマニアック ラーメンGINZA TON BOX 株式会社スーパーマニアック ラーメンGINZA TON BOX

飯島:「商品的デザイン」では、空間そのものだけをデザインするわけではない?

今福:そうですね。僕は自分のことを「商環境プロデューサー」と呼んでいます。空間だけをきれいに整えるのではなく、その店がどんなサービスを提供し、そこで人がどう動くのかまで含めて考えています。

商業空間には、そこで働く人がいて、サービスがあり、お客様とのコミュニケーションがあります。どれだけ造形として美しい空間をつくっても、そこで行われるサービスやオペレーションとうまく結びついていなければ、商環境としては十分ではありません。

だから僕にとって、空間はそれ自体が目的ではなく、事業やサービスを表現するための一つの装置、あるいは舞台のようなものです。その事業が持っている価値をどうすればお客様に伝えられるのか、どうすれば成果につながるのかを考え、そこで人がどう動き、どんなコミュニケーションが生まれるのかまで含めて、空間として形にしていく。

「人をデザインする」「仕組みをデザインする」というところまで含めて考える。それが、僕らの「商品的デザイン」だと思っています。

空間の印象を左右する照明と「影」のデザイン

飯島:「際」にある価値を見つけ、それを空間として表現していく。その中で、光や照明はどのような役割を担っているのでしょうか。

今福:僕は、あえて隠すことで、逆にその存在が際立つことがあると考えています。すべてを見せるのではなく、隠すことによって何を際立たせるのか。僕がよく言う「際(きわ)」にもつながる考え方です。

ライティングも同じで、僕は「光をつくらなくていいから、影をつくってほしい」とよく言います。空間全体をただ明るくするのではなく、どこを見せて、どこを隠すのかを考える。

そのうえで、影の濃淡をどうつくるのかを照明デザイナーと一緒に考えていきます。光そのものをデザインするというより、光と影によって何を際立たせるのか。その境界や濃淡まで考えることで、空間の表情をつくっていくんです。

飯島:そうした光と影の表現は、設計段階ですべて決められるものなのかな。

今福:照明は、実際の現場でやってみないとわからない部分が多いですね。図面で考えていても、実際に光を当ててみると、見え方が違うことがあります。

だから照明デザイナーと一緒に現場に入り、実際の光を見ながら調整していきます。素材がどう見えるのか、空間全体がどう感じられるのか。最後はその場で確認しながら、照明をつくり込んでいくんです。図面やイメージだけでは分からない部分まで、現場で光を見ながら仕上げていく。それも、空間をつくるうえで大切なプロセスだと思っています。

ーーー

前編では、今福氏がデザインの根底に据える「婆娑羅」や「際」の美意識、マーケティングとデザインの関係、そして商環境を「商品的デザイン」として捉える考え方について伺いました。

後編では、こうしたデザインの思想が実際の空間でどのように形になるのか。素材と光の関係や、現場で照明を調整しながら空間をつくり込んでいくプロセスを、具体的な物件を通して紐解きます。さらに、「耕作・編集・見える化」というデザインプロセスや、AI時代におけるデザイナーの役割についても話を伺います。


《後編はこちら》

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