次世代照明セミナー レポート4 「みんなのカフェ」ワンチーム志向のオフィスづくり」

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2019.12.3 

次世代照明セミナー「ブランド価値を高める これからの空間・照明づくりのポイントとは?」

レポート4 「みんなのカフェ」ワンチーム志向のオフィスづくり

昨年12月3日、ブライスヘッドの高橋正明氏をモデレーターに、現在国内外で活躍されている商空間デザイナーのEMBODY DESIGN 岩本勝也氏と照明デザイナーのL.GROW 榎並 宏氏のお二人をお招きして開催した、次世代照明セミナー「ブランド価値を高める これからの空間・照明づくりのポイントとは?」。
そのトークセッション・レポートの最終回となる今回は、お二人が手掛けたチョコレート製造・販売のブランド「バニラビーンズ」が、まだネット販売のみを行っていた時代の実例から、岩本氏、榎並氏それぞれにお仕事を行う上でのポリシーまでを語っていただきました。

場所:AXIS Gallery


(1)社員が一つになれ交流できるオフィスづくり「工場内 応接室」のデザイン


岩本
:実は、バニラビーンズさんとの出会いは2011年で、その頃ネット上では楽天で一番売れているブランドになっていました。自社工場にある小さな10坪くらいの空間に会社の顔になる応接室をつくってくれないかという連絡がありました。とはいえ、打ち合わせを重ねる中で、当時30代前半のオーナー以下、社員がみな元気よく明るくやっている風通しのよい会社でしたので、その交流ができるような場所をつくろうと考え、デザインをしたのがこういう空間になっています。(画像15,16)

zisedai1203re4_1.jpg(画像15)
zisedai1203re4_2.jpg(画像16)

デザインの目的として考えたのは社員が一つになれる、いまでいうワンチームみたいなものかもしれませんが、いろんな部署の人間がここにきてご飯も食べられるし、打ち合わせもできるし、それこそ応接にも使ってもらえるし、広報の人たちが撮影したり、勉強会にも使える。「みんなのカフェ」というか、いろんなことができる場所にしています。キッチンはお菓子教室にも使えますけれど、実際に商品開発をするようなシミュレーション・キッチンにもなります。オーナーからは応接室のデザインを依頼されたんですけど、このときもまた社員食堂をつくってしまったような感じです。できるだけ目的を聞いたうえでどういう表現の方がいいのかと常に模索しているような感じです。

榎並:岩本さんとの照明の打ち合わせのなかで、さっきの「みんなのカフェ」というキーワードがあったんですよね。照明的にはどうするべきかと思ったのですが、自然光が入る場所なので「ほっこりした明かり感」というか、まるでおうちの中にいるかのような、何かそういう温かい、柔らかい照明の感じがいいということでした。実はこの写真(画像2)のアングルでも4種類の全く異なる形状、色のペンダントが写っていますが、これは何故かというと、実はここにいるオーナーさんたちが自分たちでつくったかのような雰囲気、何かそういう手作り感をとりいれたかったので、こういう明かり環境にしています。よくテーブルなんかがあると、光を当てがちになっちゃうんですけど、今回はそういう温かみを出すためにもこのペンダントの回り込む明かりだけで構成しています。ただ、ここで教室みたいなことをやられるというお話を伺っていたので、唯一少し明るさを出しているのが、中央のカウンターの部分ですね。手前にくらべて奥のカウンターがクローズアップされているような状況、これをつくり出そうと思ったのが今回の照明の狙いですね。窓からの太陽光と、そういう手作り感というところでこのミッションを達成できたんじゃないかと、照明的には思っています。 

(2)成長企業のオフィスのデザイン

バニラビーンズは会社も順調に成長し、社員も増えたため工場内にあったクリエイティブ部門のオフィスをみなとみらい本店の近くに別途つくることになります。

zisedai1203re4_3.jpg岩本勝也氏
zisedai1203re4_4.jpg榎並 宏氏
zisedai1203re4_5.jpgモデレーター 高橋正明氏
zisedai1203re4_6.jpg

岩本
:ここは窓からの風景が横浜を感じさせてくれる空間だったので、できるだけ自然光を使いながら、来る人たちにも環境が見えるようなゾーニングをしようということで、高低差を使ってデザインしました。ポイントとしては、ここからベイブリッジが見えるとか、人の視線の高低差をうまく使いながら見る風景が変わってくるような装置化したオフィスにしています。でもデザインの目的としてはバニラビーンズというブランドを扱っているスタッフが横浜の顔になっていくんだと自負してもらえるよう、社員さんたちのモチベーションをあげていくためのオフィスとしての価値を創り出したと思っています。

榎並:基本的にこの3面にきっちり外光、太陽光が入ってくるという非常にいいロケーションだったので、特別なことをするのではなく、極限まで照明器具の数は少なくして、極力主張しないような機能的な明かり空間にしたつもりです。

そして、セミナーの締めくくりとして最後にお二人に、ご自身のお仕事について語っていただきました。

岩本:空間デザイナー、インテリアデザイナー、いろんないい方がありますが、僕たちがやっているブランディングデザインというのはその中で、グラフィックにも、メニューにも、オペレーションにも口をだし、挙句の果てには予算やスケジュールのことまで、いろんなことをさせられる。でも、口に出して言い合える関係性をつくっていくのがブランディングというか、創造していく上での仕事なのかなと考えています。

榎並:僕の考える照明デザインだったり、プランナーということに関しては、最初に言ったように僕の役割としては、グローイング・アップだと思っていて、主張する光がもちろん必要な時もあるんですけど、基本的にはオーナーがやりたいことだったり、岩本さんたち空間デザイナーが具現化したいことに対しての黒子的役割かなと思っています。光というのは人でいうとオシャレをして出かける前の香水の一振りとか。主張し過ぎるべきではないのかなということで、つけすぎてもだめだし、でも足りなさすぎてもだめ。そのさじ加減をうまく調整するというのが照明をブランディングしていく上では必要なんじゃないかなと思っています。

 

今回は「バニラビーンズ」「Bird’s Nest」というブランドの具体的な分かりやすい例から、空間づくり、照明づくりについて細かくレクチャーしていただき、満員の客席も納得の様子でした。現在岩本さん、榎並さんのお二人が業界を牽引しているのは、このような深い洞察やクライアントに寄り沿う姿勢があってこそと感じられるセミナーでした。

(取材/文・渡辺いさ子)

<登壇者>


IWAMOTO.jpg
デザイナー
EMBODY DESIGN 岩本 勝也
1988年 大阪芸術大学卒、丹青社入社。ミュージアムデザインを多く手掛けデザインの力で、様々な人にモノとコトを伝える楽しみを知る。 1992年 エンバディデザイン設立。「デザインは、目的を具現化して、社会や人を幸せにすること」を基本理念にして、世界をフィールドに建築・商空間・プロダクト等、領域を問わず活動する。 2004年 別会社レーベルクリエーターズを設立。自らカフェ・ショップを展開し、自己発信しながら社会と向き合う側面も持つ。
JCD賞、DSA賞などの受賞だけに止まらず、ライフスタイル誌「PEN」のデザインアワードも受賞。 著書に「EMBODY DESIGN」(アルファ企画)、「ATE-RE-INNO」(エスプレ)がある。

ENAMI.jpeg
照明デザイナー
L.GROW 榎並 宏
2001年 株式会社USHIO SPAX (現Modulex inc)に入社。 2009年 L.GROW lighting planning roomを設立。
商業空間を中心に建築環境や展示環境、ホテル、住宅にいたるまで様々な空間の照明計画に携わり、独立してからこれまでに手がけた照明計画は800件を超える。 近年では、SHISEIDO THE STORE、浅草ビューホテルロビー、名古屋ISETAN HAUS、MEZZO東京、Burlesque TOKYOなど業態に関わらず、幅広い照明プラニングを行なっている。


TAKAHASHI.jpg
モデレーター
ブライズヘッド 高橋 正明
オランダのインテリア雑誌 FRAMEのライター。フリーで日本の建築、デザイン、アートを世界に向けて発信。 アメリカ、イギリス、ドイツ、マレーシア、香港、国内の雑誌に寄稿。一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)の広報委員会アドバイザー。 韓国の国際デザイン大賞K-AWARD 2017審査員を務める。キュレーターとしてDIESELのギャラリーやストアの展示構成、 インスタレーションのキュレーションを行う。
著書に「建築プロフェッショナルの解放」、「建築プレゼンの掟」(彰国社)、「World Interior Design1,2」(商店建築社)、「次世代の空間デザイン」「Sweet Interiors & Graphics」(以上、グラフィック社)、「DESIGN CITY TOKYO」(Wiely Academy 英国)等がある。

 

 

 

 

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