次世代照明セミナー レポート3 「オーストラリア人女性オーナーの夢をかなえる焼き鳥屋のデザイン」

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2019.12.3 

次世代照明セミナー「ブランド価値を高めるこれからの空間・照明づくりのポイントとは?」

レポート3「オーストラリア人女性オーナーの夢をかなえる焼き鳥屋のデザイン」

国内外で活躍されている商空間デザイナーのEMBODY DESIGN 岩本勝也氏と照明デザイナーのL.GROW 榎並 宏氏をスピーカーにお招きし、ブライスヘッドの高橋正明氏をモデレーターに昨年12月3日に行われた、次世代照明セミナー「ブランド価値を高める これからの空間・照明づくりのポイントとは?」

そのトークセッション・レポート第3回となる今回は海外へと目を向け、オーストラリアでお二人が手掛けた「Birds’ Nest」という飲食店チェーンの実例から、日本国内とは少々異なる店舗づくり、照明づくりのポイントを語っていただきました。

場所:AXIS Gallery



3 オーストラリア人女性オーナーの夢をかなえる焼き鳥屋のデザイン

岩本:オーストラリアで手掛けた「Birds’ Nest」という焼鳥バーの飲食チェーンですが、オーナーは二人の日系オーストラリア人女性です。自分たちの店には日本人にデザインをお願いしたいということで最初はサイトから連絡をしてきてくれました。二人ともブリスベン生まれのブリスベン育ちでもともとはホテルマネージャーをしていたのですが、日本に焼鳥の修行をしに来ているときに初めて出会って、いろいろお話するなかで、彼女たちはお金もないということも分かって、それこそお金の借り方からスタートしました。 

zisedai1203re3_1.jpg (画像9)
zisedai1203re3_2.jpg(画像10)


実際に店舗の場所が決まるまでにはすごく時間がかかったのですが、その間に彼女たちとは店の目的とかいろんなことをたくさん話して、先に友達になっていった感じでしたね。そして、ウエストエンドというところに店舗の場所が決まり、できたお店がこちらになります。(画像9)焼鳥とバーという形態です。「ネオジャパン」といいますか、「海外の人から見た日本」ということでつくらせていただきました。本当は日本の大工さんたちだったらいろんなつくりかたができるのですけど、現地のすごく体の大きなビルダーさんたちでもできることとか、そういう人たちを使ってつくったお店なので、なかなか図面通りにいかない部分も結構あって、それを現場に通いながらつくっていったという感じです。やっぱりクライアントさんと先に友達になっちゃっていたということもあって、ここで僕がずっと言い続けている「目的を具現化する」っていう意味では、まず「人気店にさせたい」というのが強くて。向こうの人たちのライフスタイルというのは、平日はあまり外でご飯を食べなかったりするのですが、そういう人たちにも来てもらえるような仕組みということで、いろんな使い方を考えながらゾーニングしました。どちらかというと日本の伝統的な和食店というよりは、現地の人が日常使いすることをイメージしながら作っています。

榎並:日本らしさとインパクトということで照明的にはまず、さっき岩本さんがおっしゃっていた「海外から見た日本」みたいなものを、どう照明的に表現したらいいのかということです。一番大きなところはこの壁面のグラフィックというのが非常にインパクトを感じる場所だと思っていて、飲食スペースの半分を占めているような、そういうインパクトのあるスペースなので、いかにして彼ら現地の人たちがこれに日本らしさを感じるような照明をつくったらいいかということを話しました。国内でやるのであれば、ある程度ご提案ができる感じだったのですが、ブリスベンの文化というか、それにはあまり僕の中で触れていなかったので悩みました。その結果どうしたかというと、まず色温度が通常のお店より高いような感じになっているんですよね。これによって、竣工写真なんかを見て話していたんですけど、なんか「キルビル」みたいな世界観だよね、っていうところで、「東洋」というイメージが非常によく合う、そういう明かりのバランスになったんじゃないかなと。ただそれだけでは寒々しい感じになってきちゃうので、持ってきたのがこれらの吊もの(画像10)。ここで暖色系が入ってくるので非常によく空間のバランスとして緩和された光の手法になったかなと思っています。

zisedai1203re3_3.jpg (画像11)
zisedai1203re3_4.jpg(画像12)
zisedai1203re3_5.jpg(画像13)
zisedai1203re3_6.jpg(画像14)

 

岩本:このグラフィックは僕が墨で書いたのを拡大しただけのものです。海外出店される日本のオーナーさんたちがよくしくじるのが、日本のいいサービス、おもてなしを実践すれば、日本の文化をちゃんと伝えられれば、向こうでも成功するというふうに思いがちで、それで失敗される方が多いんですが、やっぱり現地の文化だとか、たとえば向こうの人たちは目の光の感じ方も全然違うので、日本の暗い明かりでお酒が飲めるかとか、逆にお酒を飲むところはもっと暗いところでなければダメだとか、いろんな文化の違いがあると思います。今回僕がラッキーだったのは、現地で生まれ育ったオーナーさんだったこと。これが日本からのオーナーさんだったら商品の値決めすらできない状態だったと思います。僕がそれでは高いと思うような金額でもやれると言い切れたのは、現地で生まれ育ったオーナーだからこそできたことだと思いました。

結果としてすごく流行って、行列ができる大盛況といえるお店になり、1年弱の間に結構なメディアにとりあげられるようになって、彼女たち二人はオーストラリアの「ホットプレート」という日本でいえば「どっちの料理ショー」か「料理の鉄人」みたいなゴールデンタイムのテレビ番組に出演して、クイーンズランド州代表として1年かけて闘って全豪一位になっちゃうような、すごいことになりました。(画像11)そして、その賞金で作ったお店が次の二号店です。空間的にはもともとコンビニだった建物を飲食にしたもので、45㎡くらいですかね。つくったのがこういう空間になります。(画像12)

ここの1号店はすごく流行ったのですけど、行列ができても全然儲からないと言われるんですね。どうしてかというと人件費が日本とは全然ちがって、ブリスベンの飲食店の最低賃金というのが2200円。言ったら繁盛店であればあるほど人件費がかさんでしまうという形で、その教訓を生かしてつくったのがこの2号店になります。日本的な手前からサービスができるカウンターで、ホールスタッフがいらない感覚で作っています。どちらかというと空間をデザインするというよりはオペレーションをデザインするという感覚でつくりました。だから2号店の目的というのは人気店にするだけでなく、実際に儲かるお店にしないとね、というところでつくっていったお店になります。

榎並:2号店でいうと特に意識したのはフォーカスポイントというところで、さっき岩本さんの方からもお話がありましたが、目の色がちがうっていうところもあって、海外の人は割と暗い環境でも食事をされたりしますし、もう少し自分の近くにある明かり感というのを整理しながら、その先にある何を見せたいのかというところをフォーカスポイントとして整理した案件になっています。

これはベンチシートから厨房の方を撮った画像ですが、(画像13)実はこのベンチシートの方って上からのハレーション、グラデーションで竹の部分に光を配しているだけで、特にテーブルには当ててないんですね。これによって何が生まれるかというと、主となる厨房がクローズアップされてくると。お客様自身は自分のそばにある明かりにはいい心地の暗さがあって、でも見上げるとライブ感だったり、シズル感だったりを感じるような厨房が見えてくるという。カウンターバックの照明の見せ方というのに気を遣いながら、おざなりになりがちな厨房のキッチンフードというところにもきちんと演出を行うというような手法ですかね。(画像14)割と客席に関しては無駄な明かりを配さずに、よくテーブルがあるとピッと当てたくなっちゃうんですけど、それをせず、逆にどこをクローズアップするかというとオープンキッチン、カウンター部分の賑わいを見せるというそういう手法をとっています。

岩本:実際は今ブリスベンの方でも大型フードコートへの出店とかいろんなオファーがくるようになって、2019年の初めに3号店をやって、いま4号店をやっているところです。海外にいくと「なんちゃって和食店」ってすごく多いですが、彼女たちは日本をすごくレスペクトしていて、年1回は日本にきて、日本のいろんな店のサービスをいつも新鮮にすごく喜んで帰っていくというイメージがあります。彼女たちが、次のステップとして考えていることに対して僕たちも真摯に向き合いながら、ダメなことはダメだよといってつくっていく仕事かなという風に思っています。


レポート4に続く

(取材/文・渡辺いさ子)

<登壇者>


IWAMOTO.jpg
デザイナー
EMBODY DESIGN 岩本 勝也
1988年 大阪芸術大学卒、丹青社入社。ミュージアムデザインを多く手掛けデザインの力で、様々な人にモノとコトを伝える楽しみを知る。 1992年 エンバディデザイン設立。「デザインは、目的を具現化して、社会や人を幸せにすること」を基本理念にして、世界をフィールドに建築・商空間・プロダクト等、領域を問わず活動する。 2004年 別会社レーベルクリエーターズを設立。自らカフェ・ショップを展開し、自己発信しながら社会と向き合う側面も持つ。
JCD賞、DSA賞などの受賞だけに止まらず、ライフスタイル誌「PEN」のデザインアワードも受賞。 著書に「EMBODY DESIGN」(アルファ企画)、「ATE-RE-INNO」(エスプレ)がある。

ENAMI.jpeg
照明デザイナー
L.GROW 榎並 宏
2001年 株式会社USHIO SPAX (現Modulex inc)に入社。 2009年 L.GROW lighting planning roomを設立。
商業空間を中心に建築環境や展示環境、ホテル、住宅にいたるまで様々な空間の照明計画に携わり、独立してからこれまでに手がけた照明計画は800件を超える。 近年では、SHISEIDO THE STORE、浅草ビューホテルロビー、名古屋ISETAN HAUS、MEZZO東京、Burlesque TOKYOなど業態に関わらず、幅広い照明プラニングを行なっている。


TAKAHASHI.jpg
モデレーター
ブライズヘッド 高橋 正明
オランダのインテリア雑誌 FRAMEのライター。フリーで日本の建築、デザイン、アートを世界に向けて発信。 アメリカ、イギリス、ドイツ、マレーシア、香港、国内の雑誌に寄稿。一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)の広報委員会アドバイザー。 韓国の国際デザイン大賞K-AWARD 2017審査員を務める。キュレーターとしてDIESELのギャラリーやストアの展示構成、 インスタレーションのキュレーションを行う。
著書に「建築プロフェッショナルの解放」、「建築プレゼンの掟」(彰国社)、「World Interior Design1,2」(商店建築社)、「次世代の空間デザイン」「Sweet Interiors & Graphics」(以上、グラフィック社)、「DESIGN CITY TOKYO」(Wiely Academy 英国)等がある。

 

 

 

 

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