LEDによる演出照明の手法と可能性

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LEDによる演出照明の手法と可能性

 

目次

1.はじめに
2.LEDはライティングとサイニングの二刀流
3.造作や環境の融合がしやすく照明演出の幅が拡大
4.複雑な制御や映像コンテンツにより新しい表現の世界へ
5.ディスプレイデバイスの市場規模
6.おわりに

 

 

 

1.はじめに

高橋:LEDになってからの演出照明の変わりようと現状やトレンドについて、加賀電子の電子事業部青柳さんとともに、加賀電子及びDNライティングの事例を踏まえてご紹介します。まずは加賀電子株式会社について青柳さんからご紹介します。

青柳:加賀電子は創業1968年、今年で54年目に入る会社です。もともと半導体電子部品の会社としてスタートし、現在はさらにワールドワイドにEMS事業、アミューズメント業界に特化した事業、テレビやディスプレイ、コンシューマー製品など幅広く事業を展開しています。LEDに関しては照明がLED化される以前、砲弾型LEDが主流の時代から取り扱っており、最近では照明器具の販売・施工・プランニングも行い、一般照明から演出照明まで手がけています。

高橋:次にDNライティングについてご紹介します。DNライティングは2013年、ニッポ電気とダイア蛍光が合併してスタートしました。蛍光灯のスリムランプやシームレスランプに代表される店舗の棚照明、建築化照明と言われる間接照明をお届けして60年。光源がLEDに変わっても、光にこだわるものづくりで、お客様の商品や建築空間を身近で支える照明器具メーカーです。

DNライティングの照明器具を皆様が直接目にすることは少ないと思います。什器や設置する照明、間接照明を得意としており、縁の下の力持ち的な地味な会社ですので、当社がどのような照明を取り扱っているのかご興味を持たれた方は、コーポレートサイトまでお越しください。それでは本題に入ります。

本日の趣旨は
①LEDはライティングとサイニングの二刀流がこなせるということ
②造作や環境の融合がしやすくなり、照明演出の幅が広がっているということ
③複雑な制御や映像コンテンツにより新しい表現ができるようになった
という3点です。

2.LEDはライティングとサイニングの二刀流

高橋:これまでの光源(白熱灯、蛍光灯、放電灯)は全て「ランプ」という形に縛られていたと言えます。器具の開発も、ソケットを付けなくてはいけない、電源をどこに置くかなど、ランプありきの考え方で作られてきました。当然、照明器具の設置場所や方法もそのランプや器具の特性に合わせて考え、作られてきた部分があります(図1)。

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図1 LEDがもたらした変革

 

それがLEDになり、「小さい」「色が豊富」「制御が容易」というLEDの三大特性が、照明の世界に変革をもたらしました。LED照明器具が発売されて10年以上が経ち、現在では照明はLEDということは定着していますが、本日は作り手側の視点で、この三大特性(図2)を改めてご紹介していきたいと思います。

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図2 LEDの三大特性

 

LEDの特性① 小さな発光部によりコンパクトな灯具が実現

高橋:まずはサイズです。定量的に言えば、発光部の体積は従来の光源の1/4以下にできます。従来光源である水銀灯など高出力のものと比較した場合は、それ以上のサイズの差になります。

発光部のサイズが小さくなれば、当然器具全体のサイズも小さくできます。ただし、際限なく小さくできるわけではなく、LEDからの発熱をどう逃がすか、どのように器具をコンパクトにまとめるかなど、メーカーの手腕が問われるところでもあります。

LEDが小さいことの恩恵を受けている一番の製品に、LEDビジョンがあります。パチンコ屋さんから空港のサイン表示などまで幅広く使われている「LEDサイネージ」や「LEDビジョン」と呼ばれるものですが、これらはその名の通り、LEDを敷き詰めて作られています。これにはどのような大きさのLEDが使われているのでしょうか。

lws3.jpg図3 LEDの三大特性「小さい」
lws4.jpg図4 LEDの三大特性「小さい」

 

青柳:LEDビジョンで使われているものは大体2〜5mmのものです。またLEDビジョンで大切なのはその配列間隔で、ビルの上などに取り付けられている屋外用のビジョンは10〜16mmピッチが主流です。最近だと4mmピッチというものもあります。

さらに屋内用のものだとさらに細かくなり、2.6〜3.9mmピッチが主流です。まだ少ないですが最近では1.9mmピッチ、最も細いもので0.8〜1.0mmピッチという非常に小さいものもあります。またLEDビジョンで4K表示をするケースも出てきており、よりハイピッチになる傾向にあります。

LED照明ができて10年ほど経ちますが、LEDもどんどん小さくなり、当初は5630、5050などのサイズが主流でしたが、現在ではライン光源などで小型化を求められること、価格的、原価的にも安価な3030、3528が主流になりつつあります。

高橋:LEDが小さくなったことで、できることの幅が広がり、今も進化が続いていることが顕著に現れた製品例だと個人的に思っています。

 

LEDの特性② RGBの組み合わせで豊富な色彩演出へ

高橋:次に色についてです。従来光源のランプでは発光色の種類をたくさん持つことができなかったので、特殊な色を発光する場合にはランプの表面に色のシートをかぶせて発光・発色させていました(図5)。

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図5 ランプからLEDへ、色の表現の移り変わり

 

LEDになり、赤・青・緑など、LED自体での色の発光ができるようになり、フルカラーの演出の道が開けました。皆様もご存知の光の三原色であるRGBの3色と、その発光の強さをいろいろ組み合わせることで、計算上1670万色の発色が可能になります(図6)。ただし、それは理論上・計算上だけです。

光の三原色を組み合わせて色を作るやり方は「光を混ぜ合わせる」という行為が必要となり、うまく混ぜ合わせることができないとぼやけたり発色が悪くなったり、演出の精度が悪くなる場合もあります。

特にRGBの三色全てを使って表現する白色の光や、電球色のような白を基調とする色の表現は難しいので、RGBを混ぜ合わせることで表現するのではなく、あらかじめ白色のLEDやアンバー色のLEDを別で搭載するというのがハイエンド製品のトレンドになっています。1粒のLEDの中で3色も4色も発光できる高密度なLEDも製品化され、より色の表現が豊かにできるようになっている、と言えます。

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図6 LEDの配色について

 

LEDの特性③ 5つの出力制御で様々な演出が可能に

高橋:最後にLEDの制御についてです。オン・オフや光量調整という出力の制御の方法として代表的な制御は位相制御、PWM制御、DALI制御、DMX、ETHERNET・ART-NETと大きく五つに分類できます(図7)。

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図7 LEDの制御の種類

 

白熱灯の調光や近年のLED調光の方式である位相調光、PWM調光は扱いが簡単で住宅用、店舗用として今も現役で活躍しています(図8)。最近聞くようになったDALI調光は、双方向の通信が可能になった制御です。

双方向というのは制御側の命令に対し、その命令をちゃんと実行しているかどうかの回答が返され、両者お互いに確認ができるという制御になります。ビルの共用部や大きなオフィスなど、管理や監視をすることにおいて、とても相性のいい制御ということになります。

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図8 位相制御、PWM制御、DALI制御の守備範囲

 

舞台照明で古くから実績のあるDMX制御は、通信速度が速いことから素早い切り替え、動きが求められる制御を得意としています。512系統の照明に指令が伝達できる制御がDMXですが、それよりもっと大きな情報量、つまり画像や動画の表現をしたい場合は、ETHERNET・ART-NETの出番になります(図9)。

制御のレベルが単純か複雑か、という条件を横軸、演出環境の広さが大きいか小さいかという規模感を縦軸でマップを作ると、制御の分布は図10のようなイメージになります。

先ほど説明した順に単純制御から、より複雑な制御へ、表現力が上がっていく横軸の幅に対し、それぞれの制御の得意な守備範囲、住み分けが分布している構図になります。

lws9.jpg図9 DMX制御、 ETHERNET・ART-NET の守備範囲
lws4.jpg図10 表現力と規模における制御の分布

 

このマップに実際の事例を当てはめてみると、図11のようになります。このような事例を見ると、ライトアップ演出やメディアファサードなど、複雑な演出や、画像・動画系の守備範囲が広く増えてきているのがわかります。

従来のランプ光源ではできなかった演出内容やコンテツに対して、LEDになり小さなサイニングの照明器具や制御技術・手法が追いついてきて、ディスプレイやサイネージなど、新しい価値のある製品が提供できるようになってきているとも言えます。

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図11 実際の事例を当てはめた、表現力と規模における制御の分布

 

このマップで一番右側に位置するテレビやサイネージ、プロジェクションマッピングについては、広さや制御の複雑さにより住み分けがありそうですが、いかがでしょうか。

青柳:デジタルサイネージの世界で言いますと、小さいものは店舗で使われる8インチから10インチ程度のタブレット大のPOPサイネージや小型のサイネージ、そういうものも登場していますが、駅や商業施設などで使用されている広告媒体を表示する業務用のディスプレイですと43〜65インチ程度の大きさが主流になっています。

LCDディスプレイの世界では、液晶メーカーのマザーガラスの製造工程の問題から、最大でも98インチ程度が限界になっています。
そのため一枚一枚は小さいのですが、最近ではディスプレイをマルチで組んだ4面マルチ、16面マルチなどで大きくすることも可能です。

また屋外向けのデジタルディスプレイ広告を主体とするものとしてLEDビジョンが最近多く出回っています。渋谷や新宿などに設置してあるものですが、大きいものですと50平米から60平米くらいになる大きいLEDビジョンも珍しくありません。

近年LEDの輝度が上がってきており、普通のディスプレイで1000カンデラくらいが限界のところ、数年前で2000カンデラくらい、LEDビジョンでは5000カンデラ6000カンデラ、最近では8000カンデラくらいまで出せるものも登場してきていますので、日中の直射日光の下でもはっきり視認できるようになっています。

それ以上大きいもの、プロジェクションマッピングに関してはプロジェクターを数台使うことによって理論上は何メーターでも表示することが可能です。大型のもので100m、200mという映像表現も珍しくないような状況です。

高橋:デジタルサイネージは屋外や明るい環境でもよく見えるように、テレビの輝度の数倍以上のものを利用しているようです。普段よく見かけるデジタルサイネージですが、照明メーカーでもその明るさを特に意識したことはありませんでした。青柳さんには後半部でこの辺りの事例も含めた紹介をしていただきます。

 

3.造作や環境の融合がしやすく照明演出の幅が拡大

高橋:DNライティングは間接照明・棚照明をビジネステリトリーとしており、細長いライン照明を作るのが得意なメーカーです。

本日の二番目の趣旨である、造作や環境の融合がしやすく、照明演出の幅が拡大している、というのはLEDの三大特性である「小さい」「色が豊富」「制御が可能」という部分を最大限に生かした集大成だと思います。

照明という存在感を小さくでき、演出や空間作りにより集中できる環境を整えているとも言えるでしょう。本日は4つほど事例紹介をします。

 

①壁面照明による建物そのものの演出事例

高橋:LED照明でも配向角が集光タイプの光で、下側から照射して煽ることで壁面や凹凸のメリハリ感を持たせる見せ方をしたものです。

従来光源である水銀灯でポイント照射していたもの(図12左)とLEDライン照明によるウォールウォッシャー(図12右)を比較するとその違いは一目瞭然です。

しかしその照明の見え方、見せ方に正しい・間違いという答えはなく、どのような演出をしたいか、ということだけが重要だと思っています(図13)。

lws12.jpg図12 神奈川県庁本庁舎のLEDライン照明によるウォールウォッシャー①面や立体を魅せる演出
lws13.jpg図13 神奈川県庁本庁舎のLEDライン照明によるウォールウォッシャー②どのように見せたいか、という演出でライティングも変わる

 

例え方は乱暴ですがディズニーランドで言えばホーンテッドマンションのようなおどろおどろしい演出を狙うのか、シンデレラ城のようなそびえるきらびやかな演出をしたいのか、そのどちらを狙っているかが重要な事項になります。
そしてそのどちらを実現したいかで、照明の手法や選ぶ照明器具も変わってくるというのがポイントです。

 

②手すりという造作に仕込んだ照明の空間演出

高橋:次に、日本平公園の展望回廊の事例です。照明は手すりの中に仕込まれ、景観を邪魔することなく照明が組み込まれている見事な成功事例と思っています(図14)。ここまで造作と照明が融合できている事例はまたとないと自負しています。

皆様、日本平公園にぜひ足を運んでみてください。直にその手すりを握っていただき、どのように照明が仕込まれているか、どのように電源が供給されているかなど細かい部分を意識しながら見ていただければ、より楽しくなるのではと思います。

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図14 日本平公園展望回廊(手すり・ナカ工業株式会社制作)

 

③什器に組み込んだ照明の店舗演出

高橋:什器と商談スペースのパーテーションの縁取りに照明を仕込んでいます。スペースの境界を主張しながら、店舗内装のメリハリ感を演出できている事例だと思います(図15)。

ここに使われている照明は、DNライティングのプロファイルシステムという新製品になります。このプロファイルシステムの製品事例をもう一つ紹介します。

図15 日比谷ミッドタウン LEXUS MEETS HIBIYA(事例ページに飛びます)

 

④ルーバー造作による空間演出

高橋:日建スチールの石膏ボードユニット「JUPITA」を使って制作したルーバーによる空間演出の事例です。日建スチールさんは石膏造作を工場で生産し、現場施工を簡素化できる石膏製品の製造の第一人者です。

折り上げ天井の間接にRGBテープライトを置き、ルーバー下部に照明を搭載し、DALI制御で動きのある演出をしています(図16)。

従来の照明と造作を分けて考えていた手法から一歩進んだ造作照明のあり方であり、これもLEDにより器具が小さくできたこと、また複雑な制御ができるようになった恩恵を受けた空間だと思っています。

このプロファイルシステムはDNライティングのショールームで現物を確認できますので、興味のある方は是非ショールームまでお立ち寄りください。
DNライティングの東京及び大阪のショールーム、皆様と検証しながら作り上げていく、というコンセプトの実験スペースになります。困っていることやデザイン固めをする際に是非ご活用ください。

lws16_1.jpg図16-1 DNライティング五反田ショールームE139 折り上げ天井
lws16_2.jpg図16-2 DNライティング五反田ショールームE139 折り上げ天井

 

4.複雑な制御や映像コンテンツにより新しい表現の世界へ

高橋:制御の部分でご紹介した話と、LEDと制御の組み合わせにより、より複雑で精細な表現が、ここまで出来るようになっていますという紹介になります。このパートが得意テリトリーである加賀電子青柳さんにお願いします。

青柳:間接光と直接光による演出照明の実例と、有機ELディスプレイを利用したデジタルサイネージの側面から見る空間演出の事例を交えましてご紹介していきます。

まずライトアップを間接光で行っている有名な事例としましては、東京スカイツリーがあります。間接光で演出することにより、大人っぽさや落ち着いた雰囲気が演出できるのが特徴です(図17)。

直接光の特徴は町のパチンコ屋さんやイルミネーションなど、賑やかな感じ、ワクワクする感じを演出する手法として一般的に使われています。直接光は建物の輪郭をはっきりさせるという特徴もありますので、建築物をシャープに表現したい場合に使用するケースがあります。

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図17 間接光と直接光の一般的な例

 

①LED間接光による効果的な照明手法

青柳:大井競馬場は昔の古い公営ギャンブル場のイメージから、現代の大人の社交場というイメージに刷新したいということで、駅に降りた瞬間からワクワクする、そんなイメージのもと、現代的なシンボリックに仕上げました。

この照明には約5400個の3in1LEDモジュールが使用されており、直接光のギラギラしたイメージではなく、壁面に間接光を照らすことで演出しました(図18)。

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図18 大井競馬場前駅

 

当初は一般的なRGBを使用した投光器を設置して間接照明を演出しようと思ったのですが、建物も古く、壁面の重量の制限があったためそれは断念しました。

そしてより強く壁面をベタに照らす方法を模索した結果、軽量アルミ素材で、どこから見ても粒感のない間接光にて駅舎全体をベタに光らせるという方法になりました。

手前が川ですので、夜、川面に駅舎を浮かび上がらせるという演出を実現した事例です。壁面にはアルミの特注間接照明を230本設置して作りました(図19)。

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図19 駅舎の壁面にアルミの特注間接照明を230本設置

 

②天井が青空から夜空へ変化する環境演出

青柳:次がお台場のヴィーナスフォートです。少し古い事例ですが、16世紀から17世紀のヨーロッパの美しい街並みを表現した商業施設です。

1995年くらいにオープンした施設で、天井を空のように演出しており、1時間で青空から夕焼け、夜空へ変化するという環境演出が全フロアーに広がる、創造的な空間になっています(図20)。

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図20 お台場ヴィーナスフォートの環境演出照明

 

夜の照明は1650台のウォールウォッシャーが使用されています。実は2011年の東日本大震災の直後の電力不足の影響で、省エネの観点から従来ハロゲン光で設置していたものをLEDに変更しました。
LEDに変更することで従来937キロワットという消費電力から、91キロワット、約1/10に削減することができました。削減効果としては年間で9300万円の電気代の削減になりました。

ただ、省エネにすれば良いというわけでもなく、演出効果を損なわずに省エネを実現するということが命題になっていますので、その点で2点ほどLEDを使うことに苦労した点があります。

一つ目は従来光源とLEDは配光が全く異なるという点です。LEDは光の直進性が強く、従来のハロゲン光と比べると配光が狭いという特徴があります。
この天井面は、照明の照射位置から最大照射位置まで約20mありますが、手前側と空の中心位置とを、同じ照度でムラなくベタに照らす設定を求められました。

この点でこの空間とLEDとの相性があまり良くなくて、複雑な照射角度調整と、レンズの配光調整を求められたわけです。

レンズは15度、30度、60度と三種類使用しており、手前〜中間〜外側を照らすことで照度を均一化しましたが、特に15度のレンズを使った部分に光の筋が目立ってしまいました(図21)。

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図21 15度のレンズを使用した部分に光の筋が目立ってしまう

 

こうした問題に対し、ロストカバーなどを使用して、一台一台調整して筋を消していくという作業を行いました。 もう一つの点はLEDでは色の表現が難しい、ということです。

ハロゲンと比較した場合のLEDの演色性の低さから、夕焼けのシーンの再現が難しく、従来4シーンをフェード調光していたのですが、LEDでは違和感が生じてしまいました。そこで16シーンの色目を作ることによって夕焼けから日没への自然なシーンを表現することに成功しました。

 

③1250万球のLEDを使用したLEDビジョン

青柳:次がラスベガスのフリーモントストリートというところの事例です。2004年に先ほどのヴィーナスフォートのような間接照明から約1250万球のLEDを使用したLEDビジョンに変更しました。

こちらは間接照明ではなくLEDビジョンをそのまま天井に設置した事例で、いわゆる直接光源に変更することによって、空間の明るさが4倍になりました。それによって躍動感、高揚感というのがアップし、ラスベガスの賑やかな雰囲気の商業施設へと変貌しました(図22)。

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図22 ラスベガス フリーモントストリートの天井LEDビジョン

 

また間接照明とは異なり、広告映像も流せることから当時は大型のデジタルサイネージとしての側面もあり、非常に話題になった事例です。ヴィーナスフォートと同じ構造の空間なのですが、間接光と直接光ではこれだけ空間の雰囲気が変わってくる、といった事例として紹介させていただきました。

 

④LEDモジュールの直接発光による演出

青柳:次はまたお台場に戻りまして、ビーナスフォート屋外の壁面です(図23)。これは横が65m、縦は10mの壁面に、約6300個のLEDモジュールを約300mmピッチで並べています。

300mmピッチなので近くで見ると非常に粗く見えるのですが、実際は30mから50mの距離から見る施設ですので、その距離からは文字や画像がはっきり視認できます。

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図23 お台場ヴィーナスフォート屋外壁面

 

また直接光源ですとグレアが強く街中のネオン街のようなイメージになってしまいますが、LEDモジュールの表面の素材に二版のフロスト素材を使用することでグレアを軽減し、直接光源でありながら柔らかいイメージを実現しました。

LEDモジュールを使用し照明制御をすることにより、LEDビジョンと比較して軽量かつ施工が簡単で、大幅に建築コストを削減できたというメリットがありました。

 

⑤有機ELディスプレイのサイネージ事例

青柳:次が韓国の仁川空港です。有機ELディスプレイを使用したデジタルサイネージです。有機ELディスプレイは厚さ3.7mmと非常に薄型になっており、55インチの大きさでも重さが5キロと薄型軽量を実現したディスプレイです。

昨今家庭用テレビでも有機ELディスプレイが普及してきていますが、従来設置が困難であった場所でも設置可能というメリットがあります。また湾曲させることが可能ですので、垂れ幕のような形で使用することが可能です(図24)。

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図24 韓国仁川空港のデジタルサイネージ

 

5.ディスプレイデバイスの市場規模

青柳:最後にディスプレイデバイスの市場規模についてご紹介します(図25)。小型から大型まで、すべて含めた事例ですが、2017年で約14兆円くらいのマーケットに対して、2022年で16兆円。これはワールドワイドのマーケットの市場規模です。

ポイントはディスプレイの大型化で、LCDの主力は現在43インチですが55インチへとどんどん大型化へとシフトしています。有機ELパネルは2022年までに、2017年対比で12倍の成長を見込んでいます。

ちなみに日本国内のマーケットでは、2022年で約2兆4000億円くらいのマーケットを見込んでいます。長期的には増加傾向にありますが、2020年から2021年はコロナの影響もありまして、家庭用は販売堅調ですが業務用は少し横ばいです。しかし2023年には10%から20%くらいの成長率を見込んで成長する市場になっています。

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図25 ディスプレイデバイスのマーケット動向

 

図26は2010年度から2020年度までのディスプレイ、LEDビジョン、LEDモジュールの価格の推移を示したものです。縦軸が解像度、横軸が価格を表していて、1平米あたり2500カンデラを基準として平米単価を表しています。見ての通り10年でLCDパネル、LEDビジョンの価格が約1/3になっています。

このことからもディスプレイの生産数と需要が大幅に伸びているということがわかります。LCDの生産数は今後も伸びていくと予想され、その生産数からすると価格の下落は続いていく見込みですので、使用する側からすると非常にありがたいトレンドになっていると予想されます。

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図26 ディスプレイ、LEDビジョン、LEDモジュールの価格の推移

このようにLEDを使用した演出照明とディスプレイデバイスを使用した事例をいくつかご紹介しましたが、演出照明の価値とは建築物や空間、モニュメントをライトアップすることによってその価値を向上させる効果があります。いろいろなLEDの演出照明器具が登場したことにより、LEDの制御のしやすさ、デザインの自由度が増したことで表現も様々な形で多様化しています。

またディスプレイを使用したデジタルサイネージの世界も、今までは広告表示や掲示板、看板などの要素が強い分野ではありましたが、軽量・薄型化、大型化によってデザイン性が向上して価格も安価になってきていることから、空間演出の一部として使用されるケースも増えてきています。

演出照明とデジタルサイネージをうまく使い分けていただくことで、今後もより面白い空間演出が生まれてくるのではないかと期待しています(図27)。

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図27 演出照明とデジタルサイネージをうまく使い分けることでさらなる空間演出が生まれる

 

6.おわりに

高橋:本日はLEDによる演出照明の手法と可能性と題しまして三つの趣旨でご紹介しました。

今回のセミナーにあたり照明市場や事例の整理をしていくうちに、LEDによる照明演出自体が驚きや感動、癒しの空間になり、その場所自体がシンボルやアイコンとして認知されることで人が集まる場所となり、地域の活性化に貢献すると強く感じました。

照明にはそうした力がある、この言葉を結論として締めくくりたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

 

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