次世代照明セミナーレポート2「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」メインとなる露天風呂スパ、光壁、柱の考え方
次世代照明セミナー「空間の価値を高める これからの照明づくり」レポート2
「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」メインとなる露天風呂スパ、光壁、柱の考え方。
登壇者:照明デザイナー 有限会社スタイルマテック 松本浩作 氏
清水建設株式会社 設計本部 商業・複合施設設計部 石谷貴行 氏
場所:ブリーゼタワー 小ホール(大阪)
(左:松本浩作氏、右:石谷貴行氏)
2020年、DNライティングは、大阪に照明実験空間を開設する運びとなりました。それを記念し、去る2月14日に大阪では第一回となる次世代照明セミナーを開催。関西の照明デザイン界のトップランナー、スタイルマテックの松本浩作氏と、清水建設株式会社 設計本部 商業・複合施設設計部 石谷貴行氏をお迎えし、昨夏に開業した「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」での事例をメインに、「空間の価値を高めるこれからの照明づくり」について大いに語っていただきました。お二人のトークセッションをレポートの第2回をお届けします。
目次
1.光壁
(資料22)
(資料23)
松本:エントランスに入ると高い吹き抜けがあり、その脇に光壁があります。(資料22)ガラスの表面に和紙を張った光壁になるんですが、まずこのガラス素材については素材からずいぶん「どうしよう?」って皆でやりとりしたんですが、普通の生板ガラスを使うと、いわゆる「緑色になるのがいやだ。」っていうことで、やはり高透過のガラスを使おうということになったんですよね(資料23、24)
石谷:ただ、高透過のガラスにはサイズ的な限界があるので、そうすると和紙自体の定尺サイズと共に継ぎ目が出てきてしまうのと、ガラスのシールが影になっちゃうっていうことで、「若干緑がかっても一枚物のフロートガラスにすべきではないか?」ということをさんざん議論して、最終的にはフロートの一枚物にして、施工も難しくて17人がかりで運んだんですよね。
(資料24)
(資料25)
松本:いろんな議論をしていく中で、実験も現場でやるんですけど、(資料24)「こんな程度のサイズでやったところでよくわからない。」「もっと大きなサンプルでチェックする?」などそんなやりとりをしつつ、現場からいただいた資料はこれなんですけど(資料23)下のフロアからメンテナンスするという形で、メンテナンスハッチがあります。右側に、下が2700ケルビンから2100ケルビンまでのケルビンコントロール、上が3500から2500ケルビンまでのコントロールって書いてあるんですが、これは上下調光で時間帯によって光の表現を変え、表情を変えていくというような形です。これが昼間で(資料25、左)これが夜(資料25、右)みたいな形でここのケルビンコントロールをして、時間帯で調光して表情が変わるというご提案をしています。
2.柱
(資料26)
松本:(資料26)次に、フォレストのテーマで柱がたくさん乱立しているんですけど、その柱の中に上下関節照明をつくりたいというのが、橋本デザインさんからのご提案でした。ですが、蓋をあけたら、実際の懐は、石の張り代分40しかなかったんで「間接照明は無理です!」と。どうしても橋本さんが「何とかできないか?」と言う事で、40の張り代のなかに、どうやって照明器具を納めるかっていうと、これは私が提案した時のスケッチですけど、(資料27)
(資料27)
結果「見えるのは嫌だ!」となり、最終的にまずこれを先に照明器具作って(資料29、30)石を張る前に入れるんで、石をこれから後に張ってくださいという提案をしました。最終的な方向性としてはこのタイプになったんですけど、その後に出したいくつかの提案は全て没になりました。
(資料28)
(資料28)最終案は後ほどご紹介しますが、またも柱の一番上の部分については見えかけが100で、懐高さが120しかないって言われまして、そこにどうやって照明器具を納めるかっていう、その納まりがこれです。
(資料29)
(資料29)さらに「電源の供給とメンテナンスをするときにどうするか?」コネクターで24ボルトをジョイントする場所、メンテナンスする場所をそれぞれつくっていって、ここに照明器具がはまっている。4.6ミリの鉄板で作ってこれで人がのっかっても大丈夫という形にしました
(資料30)
(資料30)現場ともいろいろやりとりをしまして、これが最終形です。こういう形であとから石をのっけて収めています。何かあったときには器具のみこれだけがとりだせる、(100の幅の中でとりだせる状態にしている)、コネクターが一緒にくっついてくるような納まりにしています。
(資料31)
(資料31)そして、完成したものがこれになります。
3.外観、ロビーバー
(資料32)
(資料33)
(資料34)
松本:(資料32)これも橋本デザインからいただいた、当時のパースはこんなイメージです。
外観、ロビーバー、完成イメージはこれです。(資料32、33)
(資料35)
(資料35)それに対して、我々の方で何をしたかというと、照明器具の割り付けと電源の出し配置っていうのを全部指示しました。通常ですと施工者が「こうでどうですか?」って言ってくるんですけど、「そのやりとりをやってる暇がない!」という現場でした。
(資料36)
(資料36)これは目線からの照明器具を隠すために5ミリの曲げをつくって、そこに照明器具を納めることで、見下ろし目線に対して器具が見えないような配慮をしています。
(資料37)
(資料37)電源の出し位置も内装さんに指示を出さないといけなかったということでしたが、非常にシビアで、結構ダメ出しくらったりしてるんですけれども。これが最終的に内装の丹青社さんにお願いしたものになります。
(資料38)
(資料38)完成したものがこれになります。結果影がでずに美しいきれいな光のグラデーションになっていると思います。LEDは従来の光源と違って定電圧であると共に電源装置が必要です。どこでコネクターとジョイントするか、どこに電源を置くか?どこに調光ドライバーを置くか?が実は重要です。
4.露天風呂
(資料39)
石谷:(資料39)露天風呂には別府石というのを使っているんですけど、通常施工上、手で運べるサイズで石の露天風呂を組むんですが、今回は巨石を全部クレーンで積むようなことをしています。わざわざコケのついた石やちょっと草が生えているものなどを山から持ってきたり、あたかも昔からあったかのようなものをつくっています。
(資料40)
(資料41)
(資料42)
(資料43)
(資料44)
(資料40、41)この庇についてここは、ちょうど上に客室があって見下ろされる場所だったんですね。ただ、露天風呂として空への抜け感が欲しいし、上からのプライバシーも確保しなければいけない、どうするかというときにコンピュテーショナルデザインの登場、(資料42)建築の人はご存じと思いますが、今流行りの”グラスホッパー”です。結局コンピューターの力に頼らないといくらやってもどんどんいろんなところから見えちゃうみたいなことが起こるので、やるんですけれど、そうするとどんどん”タッパ”(高さ)が高くなっちゃうみたいなことが起こってきて、(資料43)結果バオバブの木みたいに、すごく太いプロポーションのものになってしまって、「これはやばい!」ということで、「じゃあ構造も解析しなきゃ」ということで、タッパ(高さ)を高くすると足が太くなるし、細くしたら揺れるので、隣とぶつかっちゃうみたいなことがあって、そのあたりの構造解析と視線制御みたいなことを全部一つのプログラムに統合して、パラメトリックに解いた、みたいなことをやります。(資料44)後はナチュラルデイライトデザイン、下にも光が拡散するようにする。そんな無茶苦茶テクニカルなことを使いながら、すごくプリミティブな風景をつくっているという苦労をしています。
(資料45)
松本:(資料45)さてその夜間の照明計画ですが、私たちは、通常ですとこのパイプの中に電源を通していって、この上に何らかの照明器具をのっけようということになるんですけれど、別府っていう場所柄、泉質が硫黄分を含んだ泉質であるということで、腐食の問題をかなり意識されまして、「穴をあけてこの中に電源通しちゃだめだ!」ということになりました。
(資料46)
(資料47)
(資料46)「じゃあ配線をどっから出す?」ということで、屋根伝いに、お客様から見えない位置に屋根から屋根へ配線を渡していくという至難の業をしているわけですが、これをやるためには屋根に乗らなくてはならなくなり・・・乗っても大丈夫か?・・・いや無理・・・。実際に照明器具は(資料47)こういう先端にちっちゃい照明がついています。
(資料48)
結果的には見ての通りそれほど光源の存在というのがほとんどわからずに完成していると思います。(資料48)あわせてこの現場では非常に霧が多いんです。こんなドラマチックな風景が霧が出たときには度々あらわれてきます。
(資料49)
(資料49)これなんかはお風呂ですけど、お風呂はあまり、湿気が天井内に侵入を防ぐため比較的ダウンライトは使わないんですけど、ここではあえてダウンライトを使っています。「このヒノキの木の縁辺をきれいにみせてくれ!」っていうのが橋本デザインさんからの要望で、それに対し我々の方でレンズを使って極力伸びた光をこの四方に与えるということをしています。
(資料50)
(資料50)併せて、さっきの別府石の間接照明ですね、別府石をスライスした壁を照らすんですが、防水性を意識してこういった位置で照らしています。
(資料51)
(資料51)また打たせ湯があるんですが、これは光ファイバーを使いました。ぼくの書いたスケッチなんですが、光源は6500KのLEDでスイッチを入れると同時に光ファイバーが点灯して、信号のやりとりで水と同時点灯みたいな形でごらんのような水柱の光った打たせ湯になります。
(資料52)
(資料53)
(資料54)
(資料52)続きまして、これは家族風呂になります。先ほどからお話しているようにこのプロジェクトはこの下界へのビューというのが非常に重要で、別府湾が一望に見渡せる家族風呂になります。間接照明なんですが、(資料53)これが平面図なんですけど、庇が室内からから室外に抜けているんですね。(資料54)というところで、ここに雨どいの中に収めてます。水がたまっても浸水しても大丈夫な器具を採用して、見えないポジションのギリギリのところにとりつけて、間接照明として納めています。
5.スパ
(資料55)
松本:(資料55)さて続いてこれはスパのアプローチ廊下なんですけど、「端部のここは寸法をこれ以上増やしてくれるな、20ミリでみせたい」という橋本デザインの強いこだわりがありまして、そうするとスラブ迄の距離が100しかない。ここにまた玉石がくるということで、間接の光が回るのか?みたいなこともあるんですけど、そこのスケッチがこちらになります。
(資料56)
(資料56)こちらはその手前のアプローチなんですけど、ここは象徴的に「ガリバートンネル」といわれているところです、これも床下50くらいの納まり。この下に直接光源を置きますと、その光源の存在がバレバレになってしまうので、あえて後ろに控えて、なおかつ光源が直接見えず、拡散した光が壁面に対してきているという状態にするためのスケッチを描いています。(取付に関しては全て下地に鉄板を入れて、器具取付は全てマグネットとしています。)
(資料57)
(資料58)
(資料57)こちらがリラクゼーションエリアと、エステルームになっています。それぞれ照明計画はスケッチでお出ししていますけど、奥のリラクゼーションエリアは他からは見せたくないエリアで、中にいる人のためくつろいだ雰囲気をつくりたいということで、(資料58、右)奥が明るくなっちゃうと当然奥の様子が見えてしまうので、手前に一つの光のスクリーンをつくるんですが、スクリーンの手前に光源を置き、手前のルーバーを被写体として明るくみせ奥が見えずらくするというような手法の照明でやっています。(資料58、左)
(取材/文 渡辺いさ子)
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