自分のルーツを探るための入り口

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vol.3団塚 栄喜Eiki Danzuka|ランドスケープデザイナー

Q1:間接照明は好きですか?

好きです。照明は、人間の英知によってつくられた、いわば太陽や火の代替品であり文化です。光の手本は太陽や月といった自然現象であり、最先端の技術によって生み出されたLEDは、現在では色温度もふえてさまざまな自然の光を再現できるようになりました。そして太陽光発電の普及により、太陽エネルギーによって人工的な照明を照らすという逆行的な現象が生まれているのが面白い。

団塚 栄喜

Q2:今まで、一番美しい、かっこいい、感動を覚えた間接照明は何ですか?

「月」です。月は太陽の光が反射しているから、いわば太陽を光源とした間接照明といえるでしょう。とりわけ以前訪れたパキスタンのある少数部族が暮らす村で見た、月明かりの光景が忘れられません。その村には照明がなく、夜は漆黒の闇が広がります。しかし私が訪れた日は満月で、月光だけで村中が明るく照らされていました。青白い優しい光と静寂に包まれ、すべてのものをまんべんなく照らすフラットな月明かりと自分の影が驚く程濃かったことなど、強烈な光の記憶として残っています。

感動を覚えた間接照明

Q3:間接照明の肝、または苦々しい思い出を教えてください。

光源位置と光を受ける被照射面のテクスチャーをどうつくるのか、常に試行錯誤を繰り返し、何度もシミュレーションを行います。苦々しい経験は、つい最近もありました。とあるマンションの環境計画を手がけたのですが、当初の予定では黒御影石をノミで彫り、霞が漂う文様を描いて設置する計画でした。しかし、工事が遅れたため、黒御影石を磨き仕上げのまま下地に張ってしまったのです。磨き仕上げの石にそのまま間接照明の光を当てると光源が映り込んでしまい高級感が損なわれてしまう。石の厚みは25mmしかなく、施工後にノミで叩くことが不可能。苦肉の策で思いついたのが、グラインダーを使って直接現場で黒御影石に傷をつけて絵を描くことでした。黒からグレー、白のグラデーションを点描の様に石に傷をつくることで、霞がたなびくイメージを表現しました。一発勝負で失敗できないため緊張感がありましたが、非常にいい照明効果を生み出すことができました。

プラウドタワー白金台
プラウドタワー白金台

プラウドタワー白金台

Q4:これまで手がけた作品と照明計画のポイントを教えてください。

東京・芝に建つSOHOのオフィスビルで、間接照明を使ったアートワークを手がけました。場所は共有の会議室だったのですが、ガラスの壁の向こう側に隣地が迫り、隣のビルの壁面が見える状態だったため、それを隠しながら、「明るさを担保しつつ、リラックスできる空間」という要望を叶えるアイデアが求められました。厳しい環境でしたが、一瞬自然光が入ることがわかり、木漏れ日をつくることを思いつきました。木漏れ日を再現するために、「反射した光が丸く落ち、風でゆれる」状況を生み出そうと特殊な装置をつくりました。フィルムを貼ったガラス面の裏に、丸いステンレス鏡面仕上げのプレートを地面から伸びたワイヤーで固定し、そこに複数の色温度を組み合わせたハロゲンランプを照射させ、プレートに反射した光をフィルムに透過させています。ワイヤーは風で揺れるたびに、光も木漏れ日のようにチラチラと動きます。自然と間接照明を融合させた、新しいアート表現といえるでしょう。

クロスオフィス三田

クロスオフィス三田

Q5:今後の夢を教えてください。

子どものための聖地をつくりたいですね。私はこれまで、世界中に子どもの遊び場をつくってきました。しかし、残念ながら日本には子どもが心の底から純粋に遊び回れる場所がないと気がつきました。私は大分県佐伯市出身で、自然に囲まれた島で育ちました。自然から学んだ体験そのものが今の仕事の原点であり、かけがえのない財産になっています。ですから、今の子ども達にも夢中で遊びながら、未来につながるさまざまな体験をしてほしいと願っています。台湾の台北で手がけた「ジャングルピラミッドプロジェクト」もその一環です。これは、ステンレスを全溶接したピラミッド型のジャングルジム。しかし、ただのジャングルジムではなく、子供達が食べたパッションフルーツの種を地面に蒔き、やがて蔓が巻き付いて実をつけます。そして、実をもいで食べて、また種を植えるという循環型のアートワークなのです。ステンレスのバーには、アスリートたちが目標とする記録や目標を言葉として刻み、子ども達はそれを読みながらジャングルジムを登ると、頂上にはアートのコンセプトである「努力は実を結ぶ」という言葉にたどり着くのです。ジャングルジムはすべて鏡面仕上げなので、夜は周囲の都市の光を受けて光り輝く間接照明のようでもあります。

Q6:あなたにとって、間接照明とは

自分のルーツを探るための入り口です。私にとって、子どもの時の印象的な体験、その記憶というのは光と共にあります。子どもの頃、洞窟の中でキラキラ光る物体をみつけて「ダイアモンドを発見した!」と大喜びしたことがありました。一度家に帰り、もう一度洞窟を訪れ、よく見てみるとそれは太陽の光が反射した蜘蛛の巣についた水滴でした。当時はがっかりしたのですが、子どもの頃のそうした体験はまさに命の源に触れた瞬間だったと思うんです。光の体験や植物の体験を通して、子どもが野生に目覚める、そんなきっかけづくりをしていきたいですね。子ども達の瞳の輝きこそ、世界で一番美しい間接照明なのですから。

interview 日本間接照明研究所
writing 阿部博子

Profile

団塚 栄喜
略歴 1963年 大分県生まれ 1988年 桑沢デザイン研究所卒業後、環境美術研究所に入社 1999年 アースケイプ設立
主な プロジェクト 晴海トリトンスクエア(ランドスケープ、都市景観大賞奨励賞・BCS賞)、ららぽーと豊洲(ランドスケープ、グッドデザイン賞)、ラゾーナ川崎(ランドスケープ、グッドデザイン賞)、三井アウトレットパーク入間(ランドスケープ、グッドデザイン賞)、福岡銀行新本店(ランドスケープ)、佐伯市平和公園(ランドスケープ)、品川グランドコモンズセントラルガーデンフォリーデザイン(アートワーク)、中央合同庁舎7号館アートワーク、大分空港バゲージクレームリニューアル(グッドデザイン賞)、Rock City 青島(ランドスケープ)、威海大操場(ランドスケープ)、メディカルハーブマンカフェプロジェクト(環境プロジェクト、グッドデザイン賞、2012 Green Good Design Award)など。
EARTHSCAPE INC.: www.earthscape.co.jp

 

 

 

 

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